嗚呼 消えていく 、

「しん…っ………」

塞がれた唇
洩れる吐息

夕暮れの校舎裏はオレンジに染められた背景を切り離し、私達を淡く包み込む。
安心感
うす暗い空間の中で、孤立した二人だけのスペースは、やけに私を安堵させる。

真夏日だった。

じわじわと噎せ返るような暑さの中、火照った身体を近付けて、私達の鼓動は更に加速する。

内側から疼くような沸くような熱さが私の身体を支配して、


嗚呼、これが愛か


私は認識する。
目の前のこの男に対する感情を、恋慕を、再確認する。


校庭から聴こえる部活動最中であろう生徒の声も、今や遠く遠く、果てしなく遠く感じた。

私の唇、歯と隔たりを越えて、晋助の舌が私の口内を侵す。侵していく。私はそれを素直に受け入れる。

「……っふ…、……」

びくんっと時折跳ねる身体を、ひんやり冷たい壁にまかせて、じとりとまとわりつく空気を裂いて、必死に私は彼のシャツにしがみつく。足から崩れてしまいそうだ。


「……っ…は、…」


名残惜しそうに離れる唇と、余裕なんて欠片もない私と、不敵に笑う晋助。


「…顔、今すげェえろい」

「っ…!」

ああむかつく。
こうゆうところがむかつく。
私は多分今ゆでだこ並に顔が赤い自信がある。ああもう、火照る。顔が、耳が、体が、

「ずるい、」

晋助はいつも
私より上をいく

「いいねェ…その顔」

私の体を壁に押し付けて、晋助の手がスカートを捲り、太股を這う。

びくっとあからさまな反応を見せる私の体は今、晋助に従順で。それがまたくやしい。


「食べたい位」

耳元で囁く声に、私の頭は最早機能しなくなる。くらくらする。目眩。私は彼を愛しすぎている。本当にそう。

理性も理念も規準も貞操も、彼に呑まれ、溺れるようにぼこぼこぼこぼこ空気を吐き出して。



そして 消える
消えていく





君に溺れて、溺れて



嗚呼、嗚呼、
夏のじわりじわりと侵蝕する熱さに、君も私も呑まれて火照って、融けて消えてゆければいいのに








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