絶望だ、そう思った。
7月の雨は、空は、ずしりと重く垂れ込み、窓を濡らし、流れ落ちていく。

絶望とはこんな感じ何じゃないだろうか。

生きていけない。私にはきっと。彼がいない世界など手離したっていい。けれど彼は何時だって人の為に動くから。自らを顧みないから。とんだエゴイストである。


人の為ってんならさ、


ちらつく困ったように笑う顔。


もう死にかけるのとかやめてよ


顔が歪む。きゅ、と足が擦れる音と共に、私は口を固く閉じた。そんな事言ったって結局どうにもならない事くらい、分かってる。

この眼はあんただけを見ている。
この声はあんたに届く為だけにある。
この手はあんたに触れる為だけにある。

わたしはあんたがいなきゃ生きていけないの。きっとそれすら分かってないでしょう。

泣かないけど。
泣けないけれど。

傷付くと分かっているその背中が、愛しくて、どうしようもなく堪らなくなって、私はその背中を無言で抱き締めた。


「…どした?」
「ん…なんでもない」


温かい。人の体温。温もり。馬鹿野郎め。自分の命も護れない奴に、人の命なんか護れないんだよ。何で分かんないんだよ。あんたが死んだら泣く奴がいるんだよ。いっぱい。この世界にはいっぱい、いるんだよ。馬鹿野郎。

こいつが死んだら泣いてやらない、そう思った。棺に小さく納まったこいつを見て、一発蹴りを食らわすぐらいはしようと思った。だってどうせこいつは自分が死んで他人が泣くのを心底嫌がる奴だから。多分、そうゆう奴だから。だから泣いてなんかやらない。


いつかこの人がいなくなる未来が、こわい。


「銀の字」
「うん?」
「死なないでね」
「…おう」
「あたしが死んでいいって言うまで、死なない約束して」
「突拍子もねーな」
「破ったら殺す」
「死んでんのにか」
「あたしの中で」

あんたを殺す

ゆっくりとこちらに寝返った彼はいつもと何ら変わらない顔で、変わらないままに、「そりゃ困るわ」と言って笑った。


「お前の中には、居続けてぇよ。俺は」


そう言われて、きっと汚く顔を歪めていただろうわたしはそのまま奴の胸ぐらをひっ掴んでそこに飛び込んで、胸に顔突っ込んで、そこで初めて、泣いた。抱き締められてその窮屈さすら愛しくて、愛しくて。途方もなく私は彼を愛してる事に、彼に愛されてる事に、涙した。

言いたい事は山程あって、喉まで出かかったその言葉達をなんとか押し込めて、飲み下して。



愛ならここにあったのに。



雨は上がる気配を見せない。稲妻が轟く。時間すらわからない。今は何時なのか。私達の行き着く先に、未来はあるのか。忘れていたかった。ただ今だけは、この温もりだけを、信じていたいのだ。わたしは。






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