深緑の葉が揺れた。
がさがさと嵩張る葉と葉の間から射し込む不揃いの光に、高く高く突き抜ける眩しいくらい青い空に、ああ夏だな、と思った。

わたしは夏が好きだ。燦々と燃える太陽も、その陽を受けて輝く草木も、プールではしゃぐ子供達をみるのも、冷房のきいた部屋で静かに過ごすのも、すき。

「日射病で倒れそ…」
「銀ちゃんも帽子かぶったら?」
「したら頭が蒸して死ぬ」
「じゃー我慢だ」

げえーと嘆息する彼を見て笑った。ちなみに買い出しに付き合ってもらおうと連れ出したのは、わたしだ。たまには外に出ないとそれこそ日射病どころか冷房病で参ってしまう。去年はそれで二人して室内でぐったりしていたのだ。立ち上がる度に襲う激しい立ち眩みと頭痛の嵐に、彼ももう懲りたはずなのだけれど。

結局どちらにしたって辛い。

「国語科教師なめんな」
「はいはい、アイス食べる?」

軽く受け流して先ほど買ったいちごアイスを目の前でぶらぶらと振れば「食う」と言って、猫じゃらしを前にした猫の如き素早さでそれを手にした。

彼はいちご。
私はチョコレート。

陽射しを受けて表面は早くも溶けようとしていて、慌てて食らいつけば口の中に冷たさと甘さが広がる。
きゅーっと縮こまりたくなる衝動に駈られて片手で頬を押さえた。ああ美味しい。これだから夏はいい。

「そんなにチョコ美味しい?」
「もーたまんないね」
「一口ちょーだい」

ちゅう。むにゅ、と柔らかい唇が重ねられ、私の口の中にほのかな苺が広がっていく。不意打ちにわたしの心臓は遅れて跳ね上がる。ばくばくばくばくうるさい鼓動。溶けたアイスはひやりと一筋わたしの手を濡らした。

いつもそう!先生はいつだってわたしより一歩先をいくので、わたしはそれを追い越そうと躍起になるのだけれど、結局先生はわたしなんかより全然余裕しゃくしゃくで笑うんだから。
ずるいずるい。本当に。

自分の顔が熱いのなんかとっくに気付いていて、それが恥ずかしくてわたしはさらに耳まで赤くなる。ほんとに恥ずかしい。何がって先生はそんな紅潮したわたしの顔をみて厭らしく笑うから。

柔らかすぎる唇と唇がくっつく感覚に、肌と肌のぎりぎりの近さに、私はいつも目が眩み、倒れそうになる。溶けてしまいたいとすら、思う。


「んーやっぱいちご派だわ」


離された唇からはそんな言葉がつらつら出てきたもんだから、わたしは恨めがましくきっと睨みつけて、「…甘すぎるから嫌」と仏頂面で呟けば、先生は吹き出して笑った。


ああこうして馬鹿みたいにいつまでも笑っていられたらいい。

手を繋いで、喧嘩して、抱き締めて、美味しいもの食べて、笑って、泣いて、歳とって、じーさんばーさんになってもずっと一緒にいられたらいい。
それが束の間の幻想だったとしても。そんな夢をみていたい。


「先生、帰ったら宿題教えてね」
「読書感想文は自分で書けよ」
「えー」



それでいい。
それがわたしの幸せ。












---------------

主催企画月並みに提出


2010.06.18.柳
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -