目覚めた瞬間から身体に感じる心底気だるい感覚に、私は暫くそのままぼうっと目を細めて天井を眺めていた。
今朝の二時。

何も着けていない身体はベッドから脱け出した途端、肌寒さを感じてぶるりと震えた。ぼそぼそと頭を掻きながら脱ぎ散らかしたまま放置されているキャミソールと下着をもぞもぞと被る。まだ陽を浴びない床は素足にひんやりと冷たかった。
そのまま台所の冷蔵庫を開けるとがぱりとマグネットが名残惜しげに離れ、何もないそこからペットボトルを取り出せば、空気に触れた瞬間に汗をかいて。
ぱたりと閉まる音を何とも無しに聞き届けながら少しだけカーテンの隙間から光が見えた。まだ姿を見せない朝日は空を照らし始めていた。ずるずる足を引きずりながらカーテンを開いて、がらりとベランダへと続く窓を開け放てば、だいぶ白んだ空が私を迎える。

ぽたりと、ペットボトルから汗が滴り落ちた。

部屋から見える景色はそれはそれはもうだだっ広い海。潮の匂いが部屋に充満していく。彼はそれを気に入っていた。今でも、気に入っている。

自然とふふ、と不自然な笑いが込み上げてきて、私はペットボトルを乱暴に開け、キャップを放り投げた。ぐびぐびぐびぐびぐびぐび。口の端から水が滴り落ちる。構わない。ごきゅりごきゅり。口から喉を滑り胃袋に吸収されていくそれはただ何の味がするでもない、水だ。


嗚呼!!私は彼を愛しすぎているなあ!!


私が今この目下に広がる深く暗い海にごぼごぼと肺からありったけの二酸化炭素を吐き出しながら沈んでいったとしても、何一つ世界は変わりはしないんでしょう。

何一つ汚れる事無く、またこの一点の曇りのない朝を、迎えるのでしょう。そこに損なわれた分だけまた命は産出されるんでしょう。

そんな何もないただありふれた命の中の一つでしかない私を、愛した彼は世界にとってきっとありふれた命なんかではないはずだった。まさにイレギュラー。なるほど笑いが込み上げてくるわけだ。


正直な話、彼が世界を憎もうが壊そうが滅ぼそうが私にとってそれは余り関係のない話であり、さして興味もない事なのです。


何時だって隣で眠る彼を、馬鹿で気障で不器用で、笑っちゃう位に愛しくて愛しくて仕方がない彼との時間を、共有出来ればいいんです。そうただ彼からの相槌だけを望んでいる私は、病気なんでしょう。
ただ愛される事だけを、望んでいるのです。私は。



依存症


song by.椎名林檎
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