Because I (love) you.


彼はコーヒーを淹れるのがとても上手い。
彼自身は甘党なのでコーヒーなんて飲まない(飲んだとしても溢れんばかりの角砂糖を投入)のだけれど、彼は誰よりもコーヒーを淹れるのが上手かった。

彼の部屋のテーブルで、綺麗に整った部屋をぼんやり見つめながら、彼の淹れたコーヒーにはちみつを溶かして、ほっと肩の力を抜くのが好き。

彼の隣はとてもとても、居心地がよかったんです。


「おいし」


芯まで冷えた体をぶるりと震わせて、帰宅。彼の方が先に仕事が終わるので、いつも部屋には明かりがついていて、それになんだか嬉しくなって、部屋が見えると自然と頬がゆるんだ。

君が言うおかえりも、コーヒーを注文すると嫌々ながらも笑って淹れてくれるのも、ああ私はこの人が好きなんだなあと、実感する。

幸せなのである。
恐ろしくなる程に。


「銀時の淹れてくれるのが世界で一番おいしい」
「…今日インスタントなんですけど」
「銀時が淹れてくれるから美味しいんだってば」
「俺はお前が作るケーキが世界で一番うめぇと思ってるけど」
「ふふふ」


部屋を包み込む甘い匂い。白熱灯の淡い光。無機物の擦れる音。君の存在。立ちのぼる湯気。あたたかいコーヒー。ほんのりと蜂蜜の味。昨日作った甘いクッキー。あなたの声。わたしの声。

世界はきらきら輝いて、私がいて、君がいて。

君の淹れるコーヒーも、私のつくるお菓子も。


時間はゆっくりと流れる。ああ幸せ。私は彼を愛しすぎてるなあ。
彼と、彼を包み込む暖かい空気を、時間を、空間を。


「愛してる」


そう言って笑えば彼も笑う。そして軽くおでこにキスをして、しゃがんで俺もだ、と呟いて。照れて頭を掻く彼を途方もなく愛しいと思う。

これからの私の人生が死ぬまで彼と共にあらんことを、心の底から祈ろう。



溶けて消えた角砂糖の行方


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