桜がひらひら、ひらひら
風が吹いては空に舞った。道の端には積もり積もる花弁。
春風はまだ冷たく、天気予報は冬を告げた。

マフラー、してくればよかったかな。

ぶるりと肩を震わせれば、出るのは白い吐息。春とは思えない寒さに、私は溜め息混じりの苦笑を漏らす。
明日の花見は延期かもしれない、と思った瞬間に少しだけ安心する自分がいる事に対しての、落胆。


私の彼は、超絶かっこいいので、それはそれはもてるんですわ。


そんな自分の浅ましさ、欲深さ、諸々に嘆息する。最初は彼の隣にいられるだけでよかったはずなのに。

ひやりと頬に感じる冷たさに、私は眉をひそめた。
空を見上げれば曇天の空から白い粒子が降り注ぐ。春じゃなかったでしたっけ。今。

一度は暖かくなった季節も逆戻り。私達にはまた冬が来た。


「あれ、」
「よお」


用意周到に、少し大きい傘を差して、私の前に止まる人影。雪がやむ。差し出された傘に、私は素直におさまった。


「天気予報雨だっつーのにお前傘忘れてんだもん」
「雪になっちゃったね」
「明日の花見は延期だな」
「……そ、だね」


俯けば涙が落ちそうだった。しんしんと白い粒が降り注いでは落ちて消え行く。
真っ白な雪にこの黒い感情ごと溶けてしまいたかった。

「銀ちゃん、」
「…なに?」
「どこにもいかないで」

きゅ、と、彼の着物の裾を掴む手は自然と少し震えていた。それを私は寒さのせいにして。
彼は困ったようにこちらへ顔を向けて、少しだけ体を傾ける。

「どした?」
「ずっと、私の銀ちゃんで、いてほしいの」

愛なんて不確かなものにすがってみたって、未来の事なんか誰にも分からない。分からないんだけど。分からないからこそ。
私は確かな物が欲しかった。
人間は弱くて、愛する人さえ疑わずには生きていけないから。

「お前がそれを言うんだったら、名前もずっと俺の物でいるって誓ってもらわなきゃ、なあ?」


にやりと笑って、彼は私に口付けをした。彼の唇はとてもとても甘くて。いつもいちごの味がする。
そんな彼が好きだった。どうしようもなく、だいすき。


「だろ?」


ぐいぐいと優しく拭われた涙。私は彼の優しさに安堵。
ふっと微笑んで、いつも彼は私の薄汚い欲望ごと包み込んでくれる。そう。例えるなら。それはまるで。

雪のような人。

どうしようもない愛しさに駈られながら、彼の温もりに包まれて、私たちは肩を寄せ合いながらしんしんと降り頻る雪の道をゆるゆると歩く。

約束でも何でもします。
欲しいのは確かな確固たる証。
この温もりだけが、私に対する証明。

永遠に失いたくないと思う。愛の証拠。


春に雪が降った。
桜の花びらと共にそれはスローモーションで下へ下へとゆっくり落ちていく。
彼の隣で、私はゆっくりと目を瞑った。

春に雪
(ぜんぶぜんぶ溶けて)
(彼と私)(ひとつになれたら)

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