私は走っていた。
あれ?なんで走ってるんだっけ。
周りを見渡すと、立ち上がる煙。腐敗臭。血。血液の臭い。ぐしゃり、と足元には原型を留めていない死体。握られた刀。こびりついた返り血。

戦場。
ああ戦争だ。

私はまた走り出す。ぜえぜえと息が切れる。それでも目前に広がる敵を、斬る。斬る。蹴って殴って、ぶしゃりと斬り刻んで、血を浴びながら前へ進む。
彼らの姿を探して。

……どこに、
探しても探してもみつからない。だんだんと焦りが滲む。

がしり と

突如として足に絡みつく、幾多の腕。死人の、腕。
私は声にならない叫び声をあげた。いやだ。いやだ。もう殺したくない。もう戦いたくない。のに。なんで、なんで、なんで、わたしはここにいるの。先生。わかんないよ、先生。


今でも耳に残る、銀時の叫び声。鮮やかに蘇る、あの惨劇。

先生、松陽先生。

いつから私は道を間違えたのかな。いやこれが正解なのかな。銀時も、小太郎も、晋助も。私達が見ていたのは先生、貴方だったはずなのに。

光の見えない暗闇を必死に前へ前へと掻き分ける。帰りたい。私は、私の居場所へ、帰りたい。……、






「…名前?」

ゆっくりと重たい目蓋を押し上げると、淡い光が差し込んで、私は思わず顔をしかめた。目前に広がる銀時の顔。ここは、…ああ、いつもの万事屋だ。

「なに、泣いてんの」

つうっと、頬を伝う涙。不思議と穏やかな気持ちだった。しかし裏腹に心臓は、これでもかという位凄い早さで音をたてていた。

虚脱感。

「長い、夢をみてたの」
「…どんな?」
「攘夷戦争の時と、松陽先生がいた」
「…そか」
「みんな笑ってたの、でも、誰もいなくなってた」

銀時は私の頭を優しく撫でながら、黙って聞いててくれた。私はそれに計り知れない程安堵する。

「こわか…ったな、あ…」
「うん」
「銀時が好きだよ」

だからどうかいなくならないで、そう消えそうな声で呟くと、銀時は私を強く強く抱き締めた。

「あたりめーだばか」
「銀時、」
「愛してる」
「っ……、」
「俺だってもう失うのはご免だ」


そう言った彼の声も、震えていた。私は今生きてる事を実感して。今彼の隣にいられる事に、途方もない喜びを感じる。







君がいる。だから私はここで生きていける。


(エイプリル終了記念)
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