嗚呼、なにも
なにも残ってない

辺りに広がる血の海。骸の山。腕。足。首。血。恐怖。戦慄。悲鳴。気が付くとそこには何一つ、私の欲したものは残っていない。
「ぼーっとしてんな馬鹿」
「してないよ別に」
「もうそろそろくるきー」
「斬っても斬っても沸いてくるな。埒があかん」
「それが戦争だろォ」
背中を合わせて敵を迎え討つ。唯一私が後ろを委せられるこいつらは、何を思って戦争をし人を斬るのだろうか。
ここに芽吹く物はただ赤い赤い血の花だけ。染まる色は赤。限りなく赤に近い黒。
これが戦争。
私達が護る物は、何。こんな大量の殺戮をしておいてそれで何かを護ろうなんて事が烏滸がましい。
仲間も敵も、死んだ。沢山の命が失われた。
ブシュッと鈍い音がして目の前の男が倒れる。ゴキと骨の折れる鈍い音も、ザクッと人を斬る時の音も、もう耳は慣れてしまった。
チラリと横の夜叉の姿をみる。
ああ。
「…それでも銀時は、白なんだね」
どれだけの返り血を浴びようと、白。白だった。銀色になびく髪も、その真っ直ぐな目も。私はこれを、私はこの仲間達を護る為に、戦ってきた。死ぬ事に躊躇いはない。ただ私は私の、己の道を進むだけ。

ごぷり、

右下腹部からどぷっと鮮血が溢れ出る。動脈血は鮮やかな赤を辺りに撒き散らした。止まる事を知らない血液はどくどくと自身をも赤く染めてゆく。
気付いた銀時が目を丸くしてこちらを振り向く。
「お前いつっ…!」
「んーさっき…?」
「喋んな馬鹿!」
「大丈夫、刀一本刺さったくらいじゃ死なな……」

ぱたり ぱたり
嗚呼、銀時は、泣いてくれるんだ。私の為に、泣いてくれるんだ。
大丈夫、私はそれだけで戦える。私が死んだら君が泣いてくれる、その事実だけあれば私は戦えるよ。ぼたりと落ちる血液を垂れ流しながら、私はまた剣を振るう。びしゃりと浴びる鮮血。鮮やかな、血。
悔いはない。
私は己の魂を貫くだけ。

頬に感じる彼の涙。冷たさ。ああわたし、まだ生きている。感じてる。
「この戦争おわったらさー結婚してよ銀時」
「じゃあ生きろよ」
「わかってるよ」
「したら持ちあがんねェくらいでっかい指輪はめてやる」
「そりゃあいいね」
「死ぬな」
「死なないよ」
「好きだ」
「うん」

私は幸せもんですよ神様。こんな嬉しい最期がありますか。ああでも結婚式あげられないのはちょっと残念。指輪も残念。すごく残念。やっぱり生きたかったなあ。生きたいなあ。生きたい。生きたいよ。恐いよ。でも私、満たされてたよ。銀時。私はここにいた。ちゃんと存在した。だから忘れないで。私は貴方の事がずっとずっと好きでした。
私が残せるのは、私の存在と、貴方への想いだけ。

ああちゃんと好きでした。



芽吹いていますか


ちゃんとあなたの中にも、私はいましたか
そしたら私は本当に正真正銘の幸せもんです。

血の匂いにまみれて、私は意識を手離した。さようなら、さようなら。





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企画JOYFES様へ提出

攘夷すきです。
みんな必死に何かを守ろうとしてるのが悲しい。

ありがとうございました!

2010 柳