「……………」
「……………」
夢なら醒めろと、これ以上ないくらいにゴールドは願う。
目の前には、いつも以上に眉間にシワを寄せたシルバー。
そして、蛇に睨まれた蛙状態のゴールド。
「何故…、今まで黙っていた」
こんな状況に至った原因は、数刻ほど遡る。
久々に、昔の知人に会いに行ったゴールドは、いつもの赤いトレーナーに黄色いハーフパンツだった。
それは、最近の『彼』を知る者であれば何も気にとめないが、昔のゴールドを知る者にとっては、眉根を寄せざるを得ない格好で。
「………ゴーちゃん、まだそんな格好をしていたの?
もう16歳になるのだから、そろそろ『男装』にも無理がくるでしょう?」
「…それを言うなって」
「はぁ……。ゴーちゃんは美人さんなんだから、きちんと『女の子らしい』服装しなきゃ」
言いきった知人の前で、ゴールドは目をそらす。
そう。『彼』は、
いや、この呼称は間違っていた。
…『彼女』は、列記とした女の子。
「………と、いうワケで、じゃーん!」
「……え、ちょっ…そのキャロットスカート何?
え、えぇっ…まさか………ギャーッ!」
知人からゴールドが解放された時、ゴールドの格好は素晴らしく現代っ子だった。
蒼いキャミソールの上から、白地のチュニックを羽織る。
それに黒いショートパンツをはき、ニーソックスにロングブーツ。
普段着ている服を奪われ、ゴールドは消沈しながら帰路についていた。
「ん……?」
ふと通り掛かった公園で、木の高い部分に風船を引っ掛けて泣いている男の子を見つける。
ヘリウムの入った風船は、そよそよと風に揺られていた。
ゴールドは瞬時に状況を理解して、カバンから折り畳み式のキューを取り出す。
男の子が見ているのを背に感じながら、相棒のボールを打ち上げた。
「エーたろう!」
呼べば、タイミング良く尻尾で風船をキャッチする。そのまま降ってくる形のエイパムを抱きしめ、ゴールドは風船を男の子の前に出した。
「オラ、もう飛ばすんじゃねーぞ?」
「…ありがとうお姉ちゃん!」
礼を述べて笑いながら走って行く男の子の背を見送りながら、コケんなよ、と声を投げかける。
サンキューな、エーたろう。
そう言ってエーたろうを肩に乗せた時だった。
「………ゴー、ルド…?」
声に反応して、振り向いたのが間違いだった。
「…シルバー」
赤い髪に白銀の瞳。間違うハズが、ない。
ハッと、ゴールドは自分の格好を思い出す。
状況を理解して、逃げ出す。
しかしそれよりも早く、シルバーに腕を掴まれた。
「何故…、今まで黙っていた」
そして、話は冒頭に戻る。
「…離せよ」
「離したら逃げるだろ」
「逃げちゃダメなのかよ」
「…俺はお前がッ……」
「確かにオレは女だ!
……だから何なんだよ!オレはお前にそのことで何かしたか!?
騙したのは事実だ、オレのことが嫌いになったならそれでもいい。
……だから、離せよ!
オレは『あの日』、もう一生、女としては生きないって決めたんだ!!」
残影
揺れた黄金色の瞳に涙が滲んでいた。
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