「お兄さま」
「…プラチナ?」
シンオウ随一の屋敷の台所で、甘い香りがプラチナの鼻を掠めた。
「………リンゴ?」
台所に立っていたのはシェフではなく、兄のゴールド。
ゴールドは、一口大に切った林檎を鍋で煮詰めている。
近くに寄り、傍らで、プラチナは兄の持つ木箆に目を向けた。
「どーした?お前、今からピアノのレッスンだっただろ」
「逃げ出しました」
「…逃げたってお前………」
話しながらも、鍋の林檎に意識を向けるゴールドに、プラチナは聞いた。
「何を作っておられるのですか?」
「アップルパイ」
さも当然、と言わんばかりに返される。
何故、と問えば、続けて
「なんか食べたくなったから」
という言葉。
プラチナは、料理をする兄の背中を見つめながら、微笑んだ。
「何か手伝えることはありますか?」
そう言うと、ゴールドは、横のテーブルの上にあったパイ生地に目線を送る。
「包む側………上の生地を、型抜いてもらってもいいか?」
言われて、
「はいっ!」
とプラチナは生地をのばした。
「型抜き器はそっちの引き出しの中だからな」
ゴールドの指示通りに、引き出しに手を掛ける。
「はい、……あ、花柄!」
引き出しを開ければ、たくさんの型抜き器。
「………おい、」
「ダメですか?花柄」
「…好きにしたらいい。
抜いた生地は、型抜いた箇所の間に重ねろよ」
「はい。………あ、曲がっちゃった……」
「………あとで卵黄塗る時にどうにかするから、暖かい手で生地を長時間触るな」
「はいっ………」
「…いや、オレの言い方が悪かった。
だから泣きそうな顔すんなって。
生地を中途半端に暖かくすると、へにょへにょになるだろ?」
「………おにいさまっ………」
「うわっ、ちょ、プラチナ!」
だから泣くなって!
「ほ、ほら、あまったパイ生地でチョコパイ作ってやるから!」
「…うさぎさんの形なら」
「わかった、わかったから、抱き着くな!」
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