「………ド」
声が、聞こえる。
『また、お前か』
『………おとう、さま…』
「……ろ、………ド」
『貴様如きが、私を父と呼ぶ気か!』
「…ぃ、……ルド」
振り上げられた拳に、思わず体が震えた。
『…ごめんなさい、……ごめんなさい…!』
「ゴ………!」
『泣く時間があるなら、早く次の仕事に取り掛かれ。
貴様に裂く時間が惜しい』
「―――…ゴールド!」
意識が、ふっ、と浮上する。
ぼやけた視界に映ったのは、アカい髪と銀の瞳だった。
「……………しる、ばー?」
「………漸く起きたか。
大丈夫か?」
うなされていたぞ、と呟いたシルバーに、ゴールドは寝ていた上半身を起こす。
「………泣いて、」
「………え?」
言われて、頬を伝う液体に気付く。
「………うわっ」
サイアク、と自嘲に近い笑みを浮かべて、ゴールドは涙を乱暴に拭った。
でも、涙は止まらない。
「…どうした」
隣に移動したシルバーがゴールドの涙を拭い、あやすように言う。
「………ごめんなさい、って、ずっと謝ってただろ」
「!」
「誰に、謝ってたんだ?」
問われて、ゴールドは答えられなかった。
シルバーは、幼い頃にブルーと共に拐われ、親の愛を知らない。
だが、カントーナナシマで、父に会った、と聞いた。
そして、そこには確かに、親子の愛があった、と。
すべては、先輩たちからの話なのだが。
「………」
言えない。
血の繋がった父親に、虐待されていたなんて。
言えるわけがない。
親と子の間には愛があるのだと、知ったばかりのシルバーに。
「………なんでも、ねぇよ」
「だが……」
「…ちょっと昔のダチと喧嘩した夢見たんだよ。
それだけだ」
「………そうか」
まだ少し納得していない様子のシルバーに、ゴールドは擦り寄った。
「ちょっと、このままでいいか?」
「………好きにしろ」
ぶっきらぼうな返事に、ゴールドは軽く苦笑して、先程の夢という記憶を思い出した。
『おにいさま!』
『ゴールドくん!』
小さな自分に駆け寄った、義妹と義母。
『ぷらちな…、……おかあさま』
『おにいさま、おにいさま…!』
『ゴールドくん、あの人に殴られたのね…。
さ、屋敷に戻りましょう。怪我の治療をしなければ』
自分の小さな手を、義妹のさらに小さな手と、義母の大きな手が包み込む。
ぎゅ、と。
驚くゴールドの手を、シルバーは無言で握った。
「………俺は、」
『おにいさま、ぷらちなは、』
『ゴールドくん、私はね、』
「ずっと」
『ずーっと、ずーっと』
『永遠に』
「『『傍に居るから、』』」
過去と現在がシンクロするように、響いた。
そして涙は薄れていった。
薄れるだけで、消えはしないのだけど。
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