「なたー!」
「?」
学校へ向かって歩いていると、後方から名前を呼ばれたため、なたはくるりと振り向いた。
「ちょっと聞いてよ! 今日、玄関を出るとちょうどそこに女の人がやってきたの!」
すると、まお。
小走りでこちらに追い付くと、挨拶もそこそこに興奮した様子で語りだした。
「そうか。最近の宗教はタチが悪いな」
そんなまおに、さらりと返すなた。
確かに、出会い頭では逃げられないではない。
「違くて!」
違ったようだ。
「すっごくびっくりしたんだけど、なんとその人ね!」
「そうか。最近の仏具のキャッチセールスはタチが悪いな」
めげずにさらりと返すなた。
訪問販売とは迷惑以上の何物でもない。
「いや違くて!」
またもや違ったようだ。
「なんとその人、兄の彼女さんだったんだよー!」
「兄……。……ああ」
兄、と言われて、ぼや〜っとなんとなく思い出す。
確か、前にまおの家に行ったときに見かけた。
ような気がする。
「そう、あんなのが!」
ここまで言うと、まおは落ち着いたのか一息入れた。
「美人さんなのに、何を血迷った選択をしちゃったんだろうね〜」
ないない、と、右手を否定の方向に振りながら言うまお。
「……まあ、めでたいことなんじゃないか?」
好かれぬよりは少なくとも、となた。
「一緒に大学に行くために迎えに来たとか、若いっていいよね〜」
「……私たちの方が年下だけどな?」
ちなみにこちらは高校生。
まるで大学生の兄たちよりも年上のような口振りに、なたはさらりと突っ込みを入れた。
「ねえねえ、なた」
そこで突然にやりと笑ったまおは、
「なたはどんな人がお好きなの?」
ストレートに聞いてみた。
珍しく甘酸っぱ気なオトメ話題を吹っかけるまお。
いつもは食べ物やクジラや授業のこと、ときたまなんちゃって哲学などが主な彼女の、少しばかり毛色の違った質問。
それに対して、なたはいつも通りにさらりと答えた。
「悟り系」
(仏教縛り?)
本日のなたは、仏教系。
しかし悟りを拓いたような徳の高い方々は女人禁制なんじゃないのか、とか、まおは変なところに意識が向いた。
「まおはどうなんだ?」
「え? ……え、あたし?! ああああたしは」
切り返しを受けて、顔を赤くしつつ焦りだすまお。
自分で振っておいてなんだが、この手の話題には免疫がない。
そんな彼女の様子を見て、ふっと意地悪気に微笑むなた。
「えっと、え〜〜〜っと」
自分はどんな人が好きなのだろうかと精一杯の思考をめぐらせるまお。
学校への道を、仲良く並んで歩きながら。
実のところ、さして興味がないなどと、決して口に出さないなたであった。