こっぴどく叱られた、と言うか、自室粉砕の理由を問いただされた後。
「そう言えば、悪魔の方は?」
ごめんなさいですごめんなさいです言いまくっているテテを制し、まおは話題を変えてあげた。
「え? あ、ロアちゃんですか?」
彼女がロアちゃんと呼ぶ、コウモリのような黒い翼と矢印みたいな触角としっぽを生やした悪魔について。
「ロアちゃんは、わんちゃんと朝のお散歩に行ってるですー」
どうやら彼は、お散歩中らしい。
「へえ、犬飼ってるの?」
「はいです」
とりあえず散らかった部屋を片付けるまおの言葉に、テテは部屋の風穴にペタペタ触りながら答える。
「いいなー、犬かー」
「まおちゃんは、わんちゃんがお好きなのですか?」
「うん! でも、お兄ちゃんが動物嫌いだから飼えなくて」
まったく邪魔くさい兄貴だ、とか思いながら。
「ね、どんな犬?」
「黒くて大きいわんちゃんで、とってもお利口さんなのですよー!」
「へー! おっきい犬かー!」
まおは羨ましそうに目を輝かせる。
木片を拾いながら。
「はいです! テテもよく一緒に遊ぶですよー!」
ぱたぱたと翼をはばたかせ、テテは風穴のてっぺんに触れる。
「……。そう言えば」
それを受けて、まおは今日二回目のそう言えばを口にした。
「テテとロアって、仲良しなの?」
天使と悪魔。
なんとなく、仲が悪いとかそういうイメージがあるのだが。
「はいです! 小さい頃から面倒をみてくれます近所の優しいお兄さんなのですー!」
にっこりと笑って答えるテテ。
「……」
近所?
「ええと、天国と地獄とかではなく?」
立て続けに、質問。
「テテ、国境に住んでるですー!」
ああ、なるほど。
だから天国と地獄で近所……、
「ええ?! 天国と地獄って隣どうしなの!?」
「隣どうしですよー」
「そして仲良しなの?!」
「仲良しですよー」
「じゃあどこにこの世界があるの!?」
ニコニコ答えるテテに、まおはさらなる問い掛け。
イメージ的に、上に天国、下に地獄、だったのに。
「国境に秘密の抜け穴があるですよー!」
すると、ファンタジーな答えが返ってきた。
「そこをヒュッくりんっスパーンびょびょーっ! と行くと、この世界に繋がるですー!」
途中が、理解不能。
「……へえ……」
が、どうせ初めから分からん、というかそもそも天使が目の前にいる時点で、もうすでに諦めているまおである。
「まおは犬が好きなのか」
「って、うおわ?!」
遠い目をしていたまおの上から、今度はロアの声が降ってきた。
「う、うん。って言うかそれ、数分前の話題なんだけど」
「それにしても斬新な部屋だな」
「いや、事故だから。もとからこのデザインじゃないから」
あぐらをかいた状態でぱたぱたと浮いている彼には、まおのツッコミは、またしても効いていないし、聞いていない。
「……。じゃあ、今度連れてきてやるぞ」
「わ! 本当?!」
しかし、すぐにご機嫌になるまお。
「嘘つきは泥棒の始まりだぞ」
「え、悪魔なのに善良推進?」
「ん? 偏見はよくないぞ?」
「いや、でも悪魔って書くし」
「悪を滅する使い魔だぞ」
「え、そう訳すの!?」
「知らないぞ」
「なんなのよ」
などと、まおとロアがごちゃごちゃ喋っていると、
「――って、うわ?!」
先程からテテが何かペタペタやっていた部屋の風穴を囲むように、十字架を基調とした魔方陣がまばゆく輝いた。
「天にましますわれらの神よー、われらの罪を許したまえー!」
あわせて、テテのお祈りの言葉が響く。
するとふわりと優しい風が吹き、彼女の願いを聞きいれたかのように、風穴が、塞がった。
「……、………………」
まおは、当然のごとく固まった。
「テテはお祈りが得意だからな」
いや、得意とかそういう問題ではなく。
今、彼女は、こちらでいうところの魔法を使ってみせたのだ。
「また親になんて説明すればいいのーーーーー?!」
――が、まおの心配は、どうやらそれを超えたようだ。