冬の綺麗な空に向かってゆっくりと回る観覧車。
「……」
「……」
「「……」」
その複数あるなかで、無音を保つゴンドラがひとつ。
隣どうしで座っている彼らは、黒髪が悠で茶髪が麗。
(無言……!!)
二人を乗せて静かに動き出した観覧車に、麗はそわそわし始めた。
(いやいやいや、むりやりここまで連れてきておいてなんなのよこの仕打ちは?)
理由は、順番待ちの状態からこのかたずっと無言だったから。
(かといって一応さっきまでケンカしてた身だし……おーい悠さん許してあげるから何かしゃべれー)
意地があるらしい麗は、徐々に上昇し始めた窓の外の景色を眺めながら妙な念を送る。
(いや私も大概だけど口が悪いそちらさんが悪いんだって! って、なんだその相変わらず得な顔はもー腹立つなぁ!)
ちらりと盗み見た彼の顔。
斜め四十五度に伏せられたそれは、綺麗に片付いている。
この顔で、あの性格。
(顔がよければすべて許されるとか思ってんじゃねーぞコノヤロー!)
とか思いつつ、ばっちり許してる自分に自己嫌悪。
(って言うか、なんで今の今までケンカしてたのに個室で二人きりの観覧車なんかに連れてく)
くそぅ、卑怯な……! とか思っている途中で、彼女ははたと立ち止まった。
(……、観覧車?)
心の中でぐちぐち言っている間にも、少しずつ上昇を続ける観覧車。
(個室で、二人きり?)
急に顔の血の巡りがよくなったのか、何やら顔が熱くなってきた麗。
(こ、この展開はまさか……!)
彼女は、さらにそわそわし始めた。
(うおお、ようやく気付いたか! やっぱ私って可愛いよね! うんうんよぉく分かるよその気持ち!!)
自分は可愛くて人気があると思い込んでいる彼女は、ひとりテンションを上げる。
(ふはははは! 見たかクラスの女子ども! さあ、悠、いつでも来るがい)
と、天狗になっている思考の途中で、
「……、……麗」
ずっと床を見つめていた悠は、ようやく口を開いた。
「い?!」
ゆえに、心の声がもれた麗。
(は、初めて名前呼ばれた……!!)
とか思いつつ、
「な、ななな、何よっ?」
本人的には冷静を装って話を促した。
「……。俺、実は」
顔を上げた彼の表情には、いつもと違って余裕がない。
「う、うん?」
引き続き冷静に話を促しつつ、
(きたきたきたあああ!!)
心の中ではテンションまっくすな麗。
「ずっと……、前から」
不安定な声を懸命に繋げながら、
「へ?」
悠は、もたれかかるように麗を抱き締めた。
どっしりと構えていたつもりの麗であったが、この展開に焦りだす。
「え、えええっと、ゆ、悠……?」
焦りながらも、次の言葉を待つ。
「……俺……」
すると、彼の声が耳に届く。
(えええええ! ちょ、素敵なんですけど!!)
その時、ちょうど頂点に達した観覧車。
オレンジ色に染め上げられた美しい景色。
二人だけの空間。
早鐘を打つ鼓動。
そして、ぎゅっと強く抱き締められ、初恋の彼からの、
「高所恐怖症なんだ」
――告白。
「……、…………………………………………は?」
もたれかかるように、ではなく、ガチでもたれかかっていたようだ。
「……」
「……」
「「……」」
間。
「……」
いやいやいや、観覧車に連れてきたのはお前だろうって言うか台無しにも程があるって言うかじゃあなにゆえ観覧車に乗ろうと思ったんだと言うか。
ぶちり
麗は、激怒した。
「紛らわしいわあああああ!!」
「ややや、やめろおおお?!」
今までの思考を恥ずかしく思いつつ、その腹いせに彼の顔面を窓にごりごりと押し付けてやる麗であった。