びよ小話 | ナノ

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校日和

ミントの異変

 人々の住む街の中には魔法に溢れ、自然豊かな街の外には野性の動物と魔物が住んでいる。
その街の中でも一際大きなこの街は、国王の住む街、シャイア。
王都市に遊びに来ていた、現在国立魔法学校に通っている彼ら、

「……」

「……」

「……」

プリンとココアとポトフは、丸くしたおめめをパチクリさせていた。

「……?」

三人のパチクリ攻撃に一人で立ち向かっている彼はミント。

「あ、ちょーちょ!」

の、ちっこいの。

「えええェ?!」

「またちっちゃくなってるー!?」

「むう……」

蝶々を追い掛けてとてとて走りだしたちびっこに、困惑する三人。
彼らの反応からして、以前にもちっこい現象を経験したことがあるようだ。

「まってー!」

三人をよそに、ちっちゃいミントは、まったくもって届いていない両手を前に伸ばしながら蝶々を追い掛ける。

「枕、お前さっきミントに何あげたんだよ?!」

「梅干し」

「梅干しー!?」

どうやら、梅干しをあげた途端にちっちゃくなったらしいミント。

「おま、梅干しなんてどっから」

「そこに"ご自由にお取りください"と」

「めちゃくちゃ胡散臭いよー?!」

街中に忽然と現れたちゃぶ台の上に、書き置きと共に置いてあった梅干し。
ココアの言う通り、めちゃくちゃに胡散臭い。

「ふむ、困った」

「いや、"困った"じゃないよって言うかプリンのせいでしょー?!」

「うむ。そうとも言う」

「いや、そうとしか言わないよー!?」

プリンの物言いにココアのツッコミが炸裂するなか、

「"PS、四時間くらいで効果は切れます"」

ポトフは、書き置きの裏に書いてあった文字を読み上げた。

「む? 四時間?」

「……なんかフツーに薬の持続時間みたいだねー?」

ちびっこ効果は、あと四時間。

「わあ!?」

その間、こてん、と転んで膝を軽く擦り剥いたちっちゃいミント。

「……ふぇっ」

後、涙じわ〜。

「ヒール」

「!」

そっとしゃがんだプリンが回復魔法をかけてやると、

「む?」

ぽん、と肩を叩かれたため、彼は見上げるように後ろを見た。

「あと四時間な」

「あと四時間だよー」

そこには、押しつける気満々な二人が立っていた。

「ぷ」

「おにいちゃん、すごーい!」

ぱきっと固まったプリンに、ちっちゃいミントは眩しい瞳を向けていた。

 * 

「わあ! おもちゃ、いっぱい!」

 たまたま通りかかったお店に入ると、ちっちゃいミントの瞳がたちまち輝いた。

「ふむ……、どれが欲しいんだ?」

対して、プリン。
玩具などとは縁のない幼少時代を過ごしてきた彼には、少年の感動が伝わらなかったようだ。

「わあっ、かってくれるの!? え、えっと! んーとねっ?」

ぷぴーっと音の出るカエルの玩具をいじくりながら言ったプリンの言葉に、ちっちゃいミントの瞳が更に輝く。

「あ、これ! なつかしー!」

「おォ! 俺これ持ってたなァ!」

ぷぴぷぴやっているプリンの近くで、それぞれ懐かしの思い出に浸るココアとポトフ。

「んーと、これ! ……あ、でもそれも……やっぱりこれもいいなぁ……う〜ん……」

様々な玩具が陳列された棚を行ったり来たりしながら悩むちっちゃいミント。

「……ふむ」

そんな彼を見て、プリンは慣れた様子で手を二回叩いた。

「? なに手ェ叩いて」

「お呼びでしょうか、お客様?」

すると、ポトフの発言を遮るように、すぐさま店員が現れた。

((こ、これはまさか……っ?!))

この対応に、はっとなったポトフとココアは、

「うむ。そこからあそこまで」

「「お邪魔しましたーーー!!」」

ちっちゃいミントとプリンを店から強制退去させた。

「っ、何考えてんだお前は?!」

「む? ミントが全部欲しがってたから」

「……おもちゃ……」

「ご、ごごごめんねミントー! ほら、私が代わりにコーラあげるからねー!」

さすが、超がつくお金持ちはやることが違うらしい。

 * 

「うんしょっ、うんしょっ!」

 大好きなコーラで簡単に機嫌がなおったちっちゃいミントは、今度は公園の砂場で張り切って砂を掻き集めていた。

「……、何を作っているんだ?」

これまた砂遊びなんてしたことのないプリンは、築かれた砂の山を見ながら小首を傾げる。

「えっとね、おしろつくってるの!」

再び懐かしの思い出に浸るココアとポトフを背景に、ちっちゃいミントはにこっと笑ってそう答えた。

「お城?」

「うん、るーさまがすんでるおしろ!」

聞き返してきた彼の問いに頷いたちっちゃいミント。
ちなみに、彼の言う"るーさま"とは、この国の王、ルクレツィア=シャイアルクのことである。

「あのね、あそこにみえるでしょ? あのおしろをつくってるの!」

シャイア城を指差しながら、ちっちゃいミントはそう続けた。

「む、そうだったのか」

するとプリンは、ふっと微笑んで砂の山に近づいた。

「わあ、おにいちゃん、てつだってくれるのっ?」

「うむ」

再び瞳を輝かせた彼に、ばっちり頷いてみせるプリン。

「お。今度はうまくいってるみたいだねー?」

「だなァ」

先程のとんでもない行動からか、子どもと接することに慣れていないと見える様子からか、若干心配しながら見ていたココアとポトフ。
彼らは、仲良く砂の山に向かっている二人を見て、安心したように胸を撫で下ろした。

「微風(そよかぜ)」

――瞬間、プリンの風魔法が発動して余計な砂が吹き飛ばされ、一瞬で細部まで忠実に再現されたシャイア城メイドオブ砂が完成した。

「「……」」

口、あんぐり。

「出来た」

「わあーっ! おにいちゃん、すごーい!!」

会心の出来に満足そうに頷くプリンと、立派な砂のお城に感激するちっちゃいミント。
どうやらプリンは、子育てには向かないようだ。

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