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ィバーランド

二つの世界-後編-

ひゅんっ

とっ

 運良くセイクリッドの地下にあったワープの穴を通って、ジャンヌは小さな部屋の中に華麗に着地した。

「……モヤシの部屋、プライバシーもモヤシもあったもんじゃないわね」

小さな部屋を見回しながら、ジャンヌは小さく呟いた。
初めて立つ異世界の地。
魔力も何もない世界で、馬鹿でかい炎の魔力を宿す彼を探すのは簡単なこと。

「……。でもちょっと遠いわね」

見付けたけど距離がある。
めんどくせーとか思った彼女の背後には、

「え、えええ?! 泥棒おおお!?」

いつの間にやら、茶髪の男の子が立っていた。

「あら失礼ね。ウチは鉄棒よ」

「えええええ?! え、っと、確か110番、だっけ!?」

わけの分からないことを言い返してきたジャンヌに、ますます焦る男の子。
まさか新品のケータイの初ダイヤリングが110番になるとは夢にも思っていたが致し方ない。

「あ、も、もしもし」

「およ?」

しかし、彼の言葉を聞き逃さなかったジャンヌは、ケータイをひょいっと取り上げると、

「これ、モヤシにも繋げられるの?」

それを電話と判断したらしく、少年に尋ねた。

「も、もやし?!」

連絡手段、と言うかおニューのケータイを取られたことに大ダメージを受けた彼は、

「え? あー……えーっと……確か……、……。……あれ? えーとー……、……あ、ダサ……………………………………モヤシ=ソラ?」

(に、兄さん……っ!!)

か弱そうな女の子にモヤシ呼ばわりされている実の兄に、更なるダメージを受けたとか。

「やべー、名前忘れたわー。けどま、いっか。ゲヘヘ! さ、コレの使い方教えなさいよ!」

――旅の仲間、っていうか主人公のフルネームを覚えていなかったジャンヌは、こうしてめんどくさい主人公とめんどくさいヒロインの間を取り持ってあげたのだった。

 *

キーンコーンカーンコーン

 聞き慣れたチャイムが鳴り響き、授業の間の短い休み時間が始まった。

「桐崎」

机に頬杖をつき、青い空に浮かぶ白い雲をぼーっと眺める。
今からおよそ一年ほど前に異世界に行っていたことが嘘のような、魔法もなければ魔物もいない、それどころか、武器を持つことすら禁止されている平和な世界。

「おい、桐崎!」

「へ? あ、何しゅー?」

 名前を呼ばれていることに気付いた彼は、空から目を離して疑問符を浮かべた。

「人をシュークリームの種類みたいに呼ぶな」

「何、田中 修一?」

「かといってフルネームでも呼ぶな」

長い上に親しみが消えた呼び名に、田中 修一、通称、修はツッコミを入れた。

「ん。何、修?」

と、なんとなくバッグの中のケータイを探しながら聞く彼は桐崎 空。

「や、お前、前からぼーっとしてるけど、最近はいつになくぼへーっとしてるなーって思って」

態度わりぃ、とか微妙に思いながら、修はニヤリと笑ってこう続けた。

「恋わずらいか?」

と。

「ん。そうかも」

それを、空はあっさりと肯定した。

「……」

「……」

「「……」」

瞬間、賑やかだった教室が静まり返った。

「……え? 桐崎が、恋わずらい……?」

確認するように聞き返してみるが、

「……はあ……」

返ってきたのは、切ない溜め息。

「「ええええええ?!」」

ゆえに、仰天。
それもそのはず、彼、空は、"ドンカーン大統領"という二つ名を持つ男。
筋金入りの鈍感さが売りだった彼が、なんかおセンチになっている。
溜め息ついてる。
きゅんきゅんしている。

「……エリア……」

名前まで呟いている。

「「ええええええ?!」」

しかも、呟いた名前からして、相手は恐らくガーイジーンさーん。

「ちょ、き、桐崎?!」

「きゃー、相手は外人さんなの!?」

「桐崎くんグローバル!」

「やっべぇ、じゃあそのうち高飛びするかもしれねぇな!」

「ダーリンは外国人だぜ!!」

などと、何やら再び賑やかになった教室でも、話題の中心である空は依然変わらず。
 初めて見た時から心を奪われた彼であったが、近づこうものなら顔を真っ赤にして悲鳴をあげながら逃げていく彼女。

――また会えたって、どうせまた避けられるのにな。

完全に嫌われていると思いながらも、二度と会えなくなってしまった今、どうしようもなくつらくなる。
この気持ちは、先程言った恋わずらいとかいうものなのだろう。

「……?」

そんなことを思いながら、見つかったケータイをなんの気なしにパコッと開くと、空はあることに気が付いた。

「留守電?」

留守番電話の、伝言。

(番号だけしか表示されてないし……誰だろ?)

登録していれば名前も表示されるところだが、生憎空はそういうところで抜けている。

ピッ

よってこの番号が知っている人なのか知らない人なのか分からずに、取り敢えず伝言を聞いてみた。

『やっほぅモヤシ、今日もモヤってるぅ!?』

のっけから、テンションが高い。

「……え?」

が、そんなことは、今の空には関係なかった。
ガタッと思わず立ち上がった彼は、クラスメイトの注目の的。

『今すぐこっちに戻ってきんさい。大根が売り物にならなくなるわよ?』

なんで番号知ってるのとか、それ以前に君ケータイ持ってたのとか、いやいやそんなわけないよねとか、

『アンタ、どーせ大根に嫌われているとかアホ丸出しな勘違いしてんでしょ? てなわけで、今から五秒以内にあの虫食い穴にくること。5、4、3、2、1』

ピー

「おっそい失格鼻フックー!!」

見事に時間切れしてご本人登場で何故か鼻フックされたとか、見慣れぬ風貌にまた騒ぎだしたクラスメイトとか、もう本当にどうでもよくて。

「ゲヘヘ、メルヘン!!」

空は、ジャンヌに見送られながら勢い良く教室を抜け出した。
先程の鼻フックで若干鼻が痛いけど、廊下で次の授業の数学の先生にぶつかったけど、空は足を止めることなく全速力で走り続けた。
何故今まで気付かなかったのか疑問に思うほど身近にある、異世界へと続く秘密の抜け穴を目指して。
そして、その先に必ずやいるであろう

――君を、見つけに。



おしまい。

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