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ィバーランド

生贄のエリア

 森の中の小さな町に毎年訪れる乾期には、青々とした草木は枯れ、豊かな大地はひび割れる。
その様子はまるで、森を抜けたはるか先に広がる砂漠地帯のよう。
一、二カ月雨が降らないだけでここまで変わり果てるのかと思うほどの大干ばつ。
作物は枯れ果てて、川の水は干上がり、憔悴した町の人々は、一人の少女を神に捧げた。
生贄を送ることで神の怒りを鎮め、天から恵みが与えられるようにと祈りながら。
とても非科学的なその習慣は、町の中で密かに続いていたらしい。
なるほどそれで、毎年一人の少女が忽然と消息を絶っていたのか。

『今年はあなたがその生贄なの』

 土くれのような人型の生物が口をきく。
どうやら人語を解するこの魔物は、生贄に選ばれた美しい金髪の少女の首を、自身の能力であろうツルのようなもので締め付ける。
頭には大きな葉っぱが鬱蒼と生え、植物で言う根っこが人の形をしているその魔物。
人間で言う眼と口に位置する場所の裂け目には何も入っておらず、吸い込まれそうな闇が覗いている。
さながらマンドレイクのような不気味な姿。

『うふふふふ、馬鹿よねぇ人間って』

見た目通り植物属性のその魔物は、生贄の少女を含む町の魔法使いたちの大部分を占める水魔法でさらに元気になるという、厄介な特性を持っているようだった。
町の人間に眠らされ、気がつくとこの洞窟の主のもとへ生贄に捧げられていた彼女は、身の危険を感じて魔法で攻撃してみたものの、それはまったくの逆効果。

『あの町が枯れているのは、フロルがぜーんぶ水を吸い取っているからなのよ。雨が降らないせいじゃないわ』

雨が降らなくなっているからと言って、気候はそれほど厳しく様変わりしているわけでもなく、木々を切り開いているわけでもない。
ならば森が水をため込む力はちょっとやそっとじゃ揺るがないはずなのに、あれほどひどく様変わりしていたのは、どうやらこの魔物の仕業だったらしい。

『でもね、フロルがいたずらすると、お願い通りの可愛いお人形さんをくれるのよ? うふふふふ、人間ってホント馬鹿!!』

 甲高い笑い声が洞窟に響く中、少女は薄れそうな意識の中で視線を動かした。
そこには自分を助けに来てくれた赤髪の青年、シャーンの姿が。
勇敢に立ち向かってくれたものの、彼も彼の持っていた武器もやはり水属性であり、自らをフロルと名乗るこの魔物にはまったくもって通用しなかった。

「わりぃな、エリア……」

 助けに来たのになすすべなく捕まってしまった自分に、並々ならず腹が立つ。
どうしてこんなに助けたいのに、どうしてこんなに役に立たないのか。

「……ううん、ありがと」

 役に立ってないだなんて、そんなことは決して無かった。
町のみんなに捨てられたのだと思っていたところを、彼は助けに来てくれた。
みんな心配しているのだと伝えてにきてくれた。

『ちょっと、聞いてるの?』

 フロルがそれぞれの首を絞めているツルに力を込めると、苦しげ短い悲鳴が二人の口から洩れる。
ご機嫌よろしく話をしている途中での私語が気に喰わなかったらしい。

「お前の、話なんて……興味……ねぇよ!」

苦し紛れで精一杯の強がり。
こんな下賤な魔物に屈服するなんて、エリアを捨てた町の大人たちと同じことはしたくない。

『……なんて言ったの?』

「――! 興味ねえって、言ってんだよ!」

締め付ける力が強くなる。
しかしシャーンはひるまず魔物に噛みついた。
俺はエリアを助けに来たんだ。
こんなところで負けてたまるか。

「シャーン!?」

それに、今やっと希望の光が見えたところなのだから。

『?!』

 後方から聞こえてきた声に、フロルは驚いたように振り向いた。
そこには、茶髪の青年と、白髪の少年が立っている。

「これは一体――」

やっとこちらの部屋までたどり着いたソラは、おそらく目の前にいる魔物にやられたのであろうシャーンと、その近くにいるエリアを視界に捉えた。

「あっちがエリアでこっちがシャーンかな、ソラ兄?」

「……、たぶん」

ルゥからの質問中に頭を占めていた、

(可愛いな……って、いやいや)

という余計な考えを左右に振り払い、ソラは魔物に対峙する。
エリアはシャーンにとって大切な人なんだから、きっとエリアにとってもシャーンは大切な人なんだろうと勝手な推測をしつつ。
とにかく今は、目の前にいる敵に集中しなければ。



「立てるか?」

 燃え盛る炎が魔物を焼き払った後、シャーンはエリアに手を差し出した。

「うん、ありがとう」

それにつかまって立ちあがったエリアは、わずかに残った魔力で回復の魔法を唱える。
気休め程度ではあるが回復した二人は、魔物を見事に打ち負かしてくれた青年に目を向ける。
その間、ソラは吹っ飛ばされたルゥの介抱をしていた。

「協力してもらってよかった」

心の底から感謝している様子で呟いたシャーンに、何やら熱い視線が突き刺さる。

「?」

きらきらした視線を感じてシャーンがソラから目を離してそちらに顔を向けると、

「ねえ、シャーン」

その視線は、エリアのもので。

「私、初めて見るんだけど、あの人ってシャーンのお友達? お名前はなんていうのかしら? 歳はいくつかしら!? 好きなタイプは?! 彼女はいるのかしら??」

待ちに待っていた白馬の王子様を見付けてしまった少女は、興奮冷めやらぬ様子でマシンガンのように質問を連発する。
性格やら趣味やら好きな食べ物やら家族構成やら誕生日やら。
どうやら心優しい協力者であった人物は、実はまさかの恋敵になる相手でもあったらしい。
熱く突き刺さる眼差しに、ちょっとでも期待した俺が馬鹿だったと、シャーンは心の中でがっくりと肩を落とした。

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