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ィバーランド

ルゥの家出

 世界地図に描かれているのは、二つの大陸とその間にある一つの小さな島。
その島には未来を知る術でもあるのか、百発百中の占い師が住んでいる。
彼はどちらの国にも属せず、ただ一人静かに暮らしていた。
 かつてその島で、どちらの国に属するのかということで争いが起こった。
しかし、その島に住む彼は絶大な魔力を持ち、恐ろしい魔物をも従えていた。
王国の無慈悲な命令の下で恨みが恨みを呼ぶ理不尽な暴力を、驚くほど簡単に、息をのむほど鮮やかに鎮圧してみせた。
 争うことをやめた二つの国は、彼の占いの力を歓迎し、彼の圧倒的な力に怯えた。
そうしてそれぞれの国は未来を予見することで繁栄し、力を恐れることで平和が訪れた。
時の流れのなかで、いつしかその島は世界の中枢の役割を担うようになった。

「見つかったか?」

「いいえ、こちらには!」

「橋の向こうはどうだ!」

 いつの間にか人々の習慣として根付いた予見は、毎月のはじめに翌月の未来を見通した。
人の過ちであれば、その原因を改善することで回避することが出来る。
気候の変動であれば、ある程度は対策を立てることも出来る。
天変地異であれば、被害を最小限に留めることも出来る。
 ただし、人の行動は変えられても、自然の力は変えることが出来ない。
犯罪や争いは未然に防ぐことが出来ても、自然災害は必ず現実のものとなる。
その占いは、ものの見事に的中する。
その占いは、覆すことのできない運命なのだ。

「六つの宝玉で惑星の衝突を防いだだなんて、おとぎ話の中の話かもしれないけど」

 ――月が落下する。
そんな耳を疑うような未来さえも、確実に言い当てる。
人々の混乱を避けるために秘密裏に通達されたその予見を、二つの国はなすすべもなくあるがままの運命として受け入れた。

「何もしないよりはマシだよね」

 その世界の一角で、ひとりの王子が運命を変えるべく城を抜け出した。



「くそぅ、また見失った!」

「ルクレツィア様ちいさいから!!」

「ルクレツィア様〜、ど〜こで〜すか〜!?」

 捜索班にでも任命されたらしい兵士たちを森のなかで振り切って、ルゥは洞窟の中に身を潜めていた。

(ちいさいって言った、今ちいさいって言った!!)

兵士Aの呟きにぷりぷりしつつ、見つからないように洞窟内を進む。
ここでアイツを折檻しに行くのは、残りの兵士(複数)に自ら捕まりに行くようなもの。
流石にそこまで考えなしではない。

「だいたい、なんで世界を救おうとかっこよく旅立ったのにお尋ね者みたいになってんだよ?」

 ある程度奥に進んで行き、外の兵士たちの声が聞こえなくなったところで、ルゥは疲れたように座り込んだ。
城を抜け出す際に拝借した訓練用の槍の先には雷の明り。
我ながら便利な雷属性だと思いつつも、見つからないように念のため明りを控えめに落とす。

「ちゃんと“探さないでください”って命令書残してきたのに!」

その置き手紙は、探してくださいと言っているようなものである。
ちなみに仮に命令書であったとしても、権限的には家出したわが子を心配する王様や王妃様の方がもちろん上。
などということには気づいていないらしいルゥは、今更ながら辺りを見回した。

「つーか、どこだよここ?!」

国を治める立場にある王子として地理には詳しいが、それは地図上のお話。
実際に城の外へ出たことはほとんどない箱入りっぷり。
インドア王子様のひとりツッコミが、ほの暗い洞窟に虚しくこだました。

ガラガラガラッ

「!?」

 そのすぐ後、後方から足場が崩れる音が聞こえてきた。
まさか、見つかってしまったのだろうか?
追われている身でありながら迂闊にも盛大なひとりツッコミを入れてしまった。
それも、音響バッチリな洞窟の中で。
いやんもう、オレの馬鹿!

(ああもう、しつこいなぁ!)

こちらに近づいてくる足音に、槍を構えつつ舌打ちする。
なんなんだよお前らそんなに月に潰されて死にたいのか。
こっちは善良なる国民の皆様の命をお守りするために城を飛び出したっていうのに。
だいたい王様が何もしないで諦めてどうするんだ、国民を守ることが王の務めだろう。
予言にばっかり頼って自分の頭で考えてないからそうなるんだよ。
って言うかオレはちいさくない!!

「ボルトおおおおお!!!」

兵士Aの呟きを根に持っていたらしい。
主に一番最後のやつが怒りのパワーに変換され、構えた槍の先から紫色の雷の球が放たれる。
バリバリと派手な音を鳴らしながら、こちらにやってきた兵士の体をいかずちが貫いた。
もちろん殺すつもりはないが、しばらく気を失ってもらうくらいにはしておいた。

「どうだ、思い知ったか!」

どさりと倒れた相手に対し、獲物を仕留めたルゥは胸を張る。
お前ら名もなき兵士ごときにつかまるオレじゃないぜと誇らしげに。
虚空に向かって高らかに。

「……、あれ?」

しかし、もう一度倒れた兵士に目を向けると、それはカーディガンらしきものを羽織っていた。
いや、兵士はカーディガンじゃないだろ。
そこは鎧とか重装備してるはずだろ。
それを考慮してちょっと強めに雷魔法を使ったんだから。
え、もちろん怒りにまかせて加減を間違えたとかそんなことはしてないよたぶん。
って言うか。

「誰だ、これ……?」

茶髪に茶色のカーディガンに制服とおぼしき黒いズボンに黒い革靴。
ついでに腰に長いベルトを巻きつけて帯剣しているように見える。
こんなラフな格好を、うちの兵士はしていない。
ぷすぷすと煙をあげて、倒れたままピクリとも一向に動かないその人物に、ルゥは冷や汗を浮かべ始めた。

「だだだ、大丈夫ですかそこのお兄さあああああん?!」

どうやら勝手な勘違いで罪もないひとりの青年を傷つけてしまったらしいルゥ。
こうして彼は、罪もないひとりの青年、ソラと出会った。

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