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ィバーランド

シャーンの旅立ち

『フロル、知っているわ。"エリア"って、ずるずる長い金髪の女がいるでしょう? 今回はそいつをよこしなさい』

 ほのぐらい洞窟の奥から響く少女の不気味な声。
むかしむかしより言い伝えられてきたお話の通りだとするならば、それはまさしく神のお言葉。
村の旱魃を救うとされたその洞窟の主は、村に災難が降り掛かると決まって一人の可憐な少女の生け贄を要求した。

『フロルより、ほんのちょっとだけ可愛いお人形』

 *

 森の小さな虫たちと、フクロウの静かな歌声がいつものように聞こえてくるある夜のこと。

「ふざけるなっ!」

燃えるような赤髪の青年、シャーンは、立派な髭をたくわえた村の大人たちに食って掛かった。

「エリアを返せ!」

幼くして両親を亡くして以来、この家で兄妹のように育ってきた少女、エリアを預かったと言ってきた彼らに向けて。
 ――"預かった"。
拒否権のない、完全なる事後報告である。

「彼女は生け贄に選ばれた。それも神様直々のご指名だ。逆らうことは許されないのだよ」

 すると彼らは、諭すように優しい口調でそう言った。

「酷なようだが、昔からの決まりごとだ」

これは、村を災いから救うための儀式。

「お願いします! どうかうちの子だけは!」

 そんな彼らに、シャーンの母親も涙ながらに懇願した。
彼女にとって、エリアは今や娘同然。
可愛げのない実の息子よりずっと可愛い。

「うちの子だけじゃねぇだろ! そんなことしなくたって雨ぐらい降る!」

可愛げのない息子の反論。
シャーンは、ごもっともな意見を口にした。

「前線が……ええと……どうにかなって!」

知識の方は、ちょっと曖昧。

「今は乾期なだけじゃねぇか!」

本当に、それだけのこと。
季節がめぐれば、また自然に雨は降るだろう。

「しかしこのまま乾期が続けば、いずれ水が枯れ果てる。村のみんなが生活が出来なくなるのだよ」

しかし、さらさら流れている水にも限界がある。
事実、ここ長い期間、ずっと雨が降っていないし、川の水も随分少なくなっている。
魔法が宿る石のおかげで水道から水が出るにしても、原料は自然の水。
その根源が無くなってしまえば意味がない。

「っ……、村人の為に村人を殺すのか?」

 シャーンは、両手をぐっと握り締めた。

「村のみんなを守る為だよ」

命の天秤。
酷く明確で残酷な判断。

「違う! 生け贄を出したところで雨なんか降らないだろ!? お前たちは洞窟に住むその神気取りの魔物が怖いだけだ!!」

淡々とていのよい言葉を連ねる大人たちに、更に苛立つシャーン。

「なら、俺がそいつをやっつけてやる!!」

 どうせ他人事だからそんなに冷静でいられるんだ!
お前たちは"可憐な少女"じゃないからな!
って言うか、なんで神様オヤジ趣味!?

「……百歩譲って、私たちが神様を怖がっているだけだとしよう。だとしても」

 そんな変な事に考えを持っていかれたシャーンに、

「レベル1のお前に何が出来ると言うのだ」

彼らは、とんでもないことを言い放った。
大切なことだから、もう一度。

「レベル1のお前が」

 レベル1。
え、レベル1?

「……」

 意識に反して流れる変な汗。
 嘘だ俺18だぞ?
い、いや、そりゃあ村の外に一回も出たことないけどさ。
学校も遊ぶ場所も村の中にあるし。
でも魔法だって一応使える。
"アクアシールド"だろ、それから、……ええと……、…………………………。

「っ、れ、レベルだけなんぼあっても使えないお前らよりはマシだっ!!」

 精一杯の強がり。

「無理よアンタ!!」

「うっせぇバーカ!!」

彼は、大人たちと実の母親の制止を撥ね付けて、彼らの家の誰かが持ってきていた狩猟用の大筒をちゃっかり拝借しつつ、住み慣れた我が家から飛び出していった。

(絶対、絶対助けるんだ!)

 夜も深くなって、頼れるのは月明かりのみ。
村の魔物避けの加護の外、暗い森の中に、意を決して飛び込んだ。
魔物も寝ていることを祈りつつ。
生け贄の儀式は、確か明くる日の昼のはず。
少なくとも、少なくともそれまでに。

(協力者を探そう)

シャーンは少し、賢明になった。

 *

 ――草木の間を駆け抜けて、息を切らせたその先に、彼は一つの小さなログハウスを見出だした。
そして彼は、ソラと出会う。

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