「不二くん不二くん!これどう?」


そう言って彼女は教室に到着するなり僕のところにやってきた。どうと言われても、質問が漠然としすぎていてほうけることしかできない。見てくれは変わっていないし彼女が何かを持ってきているわけでもない。一体なんだというんだろう。


「おはよう。どうって何が?」
「おはよ!髪の毛!」
「髪型変わってないよね?」
「ちがーう!シャンプー変えたの!」


そう言って彼女は髪の毛をくるくると弄った。そういえばなんだかいい香りがするような気がする。覚えのある香りのような気もするけれど、なかなか思い出せない。
ここまできてやっと彼女の目的がわかって、ああ、そういうことかと少し憂鬱になった。僕はあいつみたいに優しくないからきっと捻くれた事を言ってしまう。


「手塚、喜んでくれるといいね」
「えっ」
「手塚のためだろう?」
「う…どうしてわかったの」
「君はいつも手塚の為に何かをしては真っ先に僕の意見を聞きに来るからね。」
「だって…不二くんは手塚と仲良いから」


仲が良い、と言えるのかは怪しいが。それでも直接手塚の所へ行ってこいと言わない僕はとても狡い。こんなに頑張ってる君を見た手塚が、もし君を好きになってしまったら?
僕はどう手を出せばいい。


「友達に、女は香りで勝負だ!って言われたんだけど香水苦手だから…手塚も苦手そうだし」
「確かに手塚は香水苦手だね」
「どう?この香りいいと思う?」
「僕は好きだけど」


ぱあ、と顔が明るくなり、そっかと嬉しそうに笑う君は僕以上に狡い。そしてわからない。君のいいとこばかり見てきて君に心を奪われない手塚を、君が好きなこと。君の悪いところを全部知っててなお君が好きな僕は、君の好きな人ではないということ。ああ、もしかして僕が馬鹿なだけなのかもしれない。


「じゃあ毎日このシャンプーにしよ。ありがとう不二くん!」
「手塚に見せなくていいのかい?」
「ううーん…だめ、もっとちゃんと女の子になってから!」
「君は充分女の子だと思うけど」
「えっ。ありがとう…。なんか不二くんに言われると嬉しい」


ああほら、やっぱり君はとても狡い。その笑顔は僕に見せるものではなくて手塚に見せるものだろうに。それでも君はどうせ僕のものにはならないくせに。


「ねえ」
「なに?」
「好きだよ」
「えっ?」
「…その香り」
「ああ、カモミール?」


そっか。この香りは、カモミールだ









彼女の髪はカモミール

(失恋なんてガラじゃないんだよ)


それでもわたしはきみをすき様に提出


どうやら私は不二くんに片思いさせるのが好きみたいです。そして不二くんが敵わない相手=手塚になってしまう。

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