「すごいですね」


引退前のコンクール、個人の部門で金賞をとった。周りはとてもいい結果だねと言ってくれるけれど、コンクールでの結果はいつも金賞だから、あまり引退という実感がわかない。
そんな事を思いながら、音楽室に飾られた私の栄光達を眺めていたら、いつの間にやら入ってきていた男の子に話し掛けられた。この子は確かテニス部の子だ。


「鳳くん?」
「俺の名前知ってるんですか?」
「有名だからねテニス部は」
「はは。それは三年生の方々ですよ」
「鳳くんはおっきいから」
「よく言われます」
「すごいって、言ってくれてありがとう。聞き慣れた言葉だけど鳳くんに言われるのは嬉しいな」


どうしてですか、と鳳くんは言った。君はきらきらしているから、と返したら、それは先輩の方ですよと不思議そうな顔で返された。
本当だよ。鳳くんはきらきらしている。音楽室から見えるグラウンドにいる鳳くんは、きらきらと強く強く、成長しているのが目に見えてわかる。言葉の通り。


「鳳くんは努力家だからなあ」
「それは先輩もじゃないですか」
「どうして?」
「よく、裏庭で自主練している時に歌が聞こえるんです。もうどの部活も終わって生徒もほとんど帰ったような放課後の時間に」
「私じゃないかもしれないじゃない」
「先輩ですよ。だって、先輩の声じゃないですか」


私の声。驚いた、初めて私の声だと気付いてくれた。歌を褒められる事はあっても声を褒められた事はなかったし、きっと同じ歌を同じ上手さの別の誰かが歌ったものを聞かせたら、みんな私じゃないと気付かないだろう。
でも鳳くんは気付いたんだね。


「私もう引退なんだ」
「はい。もう聞けなくなりますね」
「歌うよ。鳳くんが練習してる間、いつもみたいに」
「引退なんでしょう?」
「コンクールの為に歌うんじゃないの。鳳くんの為に歌いたい」


そう言うと鳳くんは照れたように笑い、それじゃあ毎日送っていきます、とまた笑った。









あなたの為の私の歌

(これからは、あなたに会いたいと思う私が歌っているから)



これを書いて長太郎熱がやばいという事に気付きました。
部活のお姫様!様に提出

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