「きょうや君!たんざくのお願いごと、何にしますか!」

「うーんとねえ…」

無意識ラブラブカップルを、もはや呆れ気味に綱吉は見ていた。
そんな曇り空な七夕の日。











「ぼくはね、お金もちになれますよーに、かな」

「きょうや君お金もちになるんですか!」

「ねがいごとだから叶わないかもしれないよ」

「えー」

可愛らしいピンク色の短冊に、文字とは言いがたい文字をきょうやはクレヨンで願い事を書き始める。

まだ何も書かれていない黄色の短冊をじーっと見つめながら、むくろは椅子から足をぶらぶらさせていた。

「…みんなのねがいごとが叶えばいーのに」

(むくろ君なんて優しい子!)

遠くからむくろの言葉に感動してた綱吉は、水色の短冊に「みんなのねがいごとがかないますように」と書いて、一人満足をしていた。



「むくろ、書いた?」

「まだですー」

しばらくして、きょうやは真剣に悩んでいるむくろに話しかける。

「あのね、オリヒメとヒコボシって知ってる?」

「お星さまのことですか?」

きょうやは願い事を書いた周りに絵を描きはじめる。

「うん、ことしは晴れると良いね」

「晴れると良いことあるんですか?」

「ヒコボシとオリヒメは晴れた日にしか会えないんだよ。二人が会うための川があふれちゃうから」

「えっ、じゃあ今日会えなかったらまたらいねんに…」

「そゆこと」


むくろは自分の短冊を暫く眺め、そして青のクレヨンを手に取り書き始めた。きょうやは黄色のクレヨンで描いた鳥を誇らしげな顔で綱吉に見せにいった。





帰る時間には、曇り空が晴れて快晴になっていた。
少しじめじめした感覚はやはり梅雨だ。

「きょーや、迎えに来たぜ」

きょうやを迎えにきたディーノは、テラスからクラスを覗いていた。それに気付いたきょうやは、むくろと遊んでいたのをやめてこちらに駆けてくる。

「ディーノ!」

「ん?どうした?」

何か言いたそうなきょうやの目線に合わせるために、ディーノはしゃがみこむ。きょうやは内緒話をするかのように耳元でごにょごにょと呟く。ディーノはにこりと笑い、良いぜと返事をすると、途端に嬉しそうな恥ずかしそうな顔をしてむくろの元へ戻ってきた。

「きょうや君?」

「むむむくろ…っあのさ」

「なんですか?」

俯いたり頬を染めるきょうやを、むくろは可愛いなぁと思って見ていた。


「今日お家来る?」

「…きょうや君ちに?」

「一緒に…オリヒメとヒコボシ…見よ?」

きょうやの可愛らしいお誘いに、近くで本の片付けをしていた綱吉は、思わず頬が緩んでしまった。
一方むくろはと言うと、困ったような顔を浮かべている。

「……えっと」

「…だめ…?」

「だめじゃないです!…でも、聞いてみますね」

「?」

むくろはキョロキョロと当たりを見渡した。
そして人影が見えた途端、むくろは靴を履いてテラスを飛び出した。


「びゃっくらーーん!!」

「うっわっ!むくろ君!遅くてごめんね」

「お?」

「あ、白蘭さんこんにちは」

「どうも綱吉君」

白髪頭の釣り目の、白蘭と呼ばれる男はむくろの保護者である。
こちらもきょうやと同じく、血の繋がりあるのかどうかよく分からない家族だ。

「むくろ君の…?」

「初めてみたむくろのおとーさん」

ディーノときょうやが驚いた表情をする中、白蘭は2人に愛想の良い笑いをした。

「おとーさんじゃないよ。ていうかこの子がきょうや君?むくろ君目の付けどころ良いねー」

「かわいいですよね!」

「うんかわいいかわいい」

白蘭は脚にしがみついたむくろを気にせず、きょうやに笑顔を向けた。
恥ずかしいのか、きょうやはディーノの後ろにそそくさと隠れてしまった。


「あっ、今日の夜きょうや君ちに行ってもいいですか!」

本来の目的を思い出し、白蘭に訴えかけるような眼差しでむくろは見つめた。

「夜?なんで?」

「きょうや君ちで七夕やるんです!」

「え、そうなの」

きょとんとした白蘭に、ディーノは別に都合が悪ければ良いから、と困り気味に笑った。
きょうやはドキドキとディーノの足にしがみついて、返事を待っている。

「いいよ。むくろ君行ってきな」

「いいんですか!」

「でも時間になったら迎えに行くからね」

「はい!」

ぱああと花が咲いたように笑顔になるむくろ。ディーノの後ろでも、きょうやは嬉しそうに頬を染めていた。

「じゃあきょうや君ちのオニーサン、住所教えてくれる?後でむくろ君お邪魔させるね」

「あ、ああ…」

「くふっ楽しみです!」

「そうだね」

「はは!やったなきょうや!」



しばらくして、白蘭はむくろを連れてきょうやの家へと訪れた。
ディーノは白蘭も部屋にあげようとしたが、用事があると断られてしまった。いつも幼稚園の迎えが遅いのも、白蘭は忙しいからなのか。

「きょうや君ち、おおきいです!」

「そうかな?」

むくろは目を輝かせて辺りを見渡す。
しばらく2人で遊んで、一緒に夕ご飯食べて、そろそろ暗くなるから、とベットに乗り上げ窓を覗いた。まだ、完全に暗くないので星は見えなかった。

「……眠いです」

「寝ちゃだめだよ」

しばらく窓を覗いていると、むくろはパタンとベットに横になって、目蓋を閉じてしまった。寝ているのかは分からないが、その姿を見て、きょうやはあきらめないぞ、と眠たい目蓋を擦りつつも耐えていた。



「むくろ……」

30分ぐらい経ち、きょうやは申し訳なさそうに眉を下げて、むくろの体を叩いた。
自分が寝ていることに気付いたむくろは、大急ぎで起き上がり、窓の外を覗く。

「くもってるから…」

真っ暗闇の空には曇り空が広がり、星はひとつと無かった。

「ざんねんだね」

「…………あ」

何も描かれていない夜空を見上げながら、はらはらとむくろの大きな瞳から涙が零れた。
きょうやは驚き、むくろのふわふわした髪を撫でた。

「ど、どうしたの…?」

いたいの?とむくろの顔を覗きこむきょうやの隣で、むくろは頬を伝う雫をいそいで拭う。
しかし拭いきれずにポタポタとズボンを濡らしてしまった。

「かわいそ…です」

「……え?」

「…っオリヒメと…ヒコボシは会えないんですか…!」

「!」

嗚咽をもらしながら、はらはらと泣いてるむくろにきょうやはぎゅっと抱き付いた。

「泣いちゃだめっ」

「でも…っ」

「だいじょうぶだよ!」

「だっていやですっ!」

「会ってるからだいじょうぶなの!」

「ふえ…っ?」

むくろはきょうやをじっと見つめる。

「2人はきっと会ってるよ。雨降ってないもん」

「本当…ですか?」

「うんっディーノが言ってた」

ぼくたちに見えなくても、きっと雲の向こうで会ってるよ。

むくろより小さい体格なきょうやは、ちょっと見上げるような形でむくろに微笑んだ。それにつられむくろもにっこり笑う。

「……あんしんしたら、眠くなりました…」

「ぼくも……」

うとうと、と徐々に睡魔に襲われる2人は、やがて7月の空に見守られながら、夢の世界に旅立っていった。

「………あれ?」

ディーノが風呂から上がった時には、既に2人はぐっすりと眠っていたという。




次の日、幼稚園に来た2人は、昨日書いた短冊が飾られている笹の葉を見ていた。

「そういえば、むくろはなんのお願いしたの?」

むくろのはどれだろう、と手当たり次第に探すがなかなか見つからない。そんな様子にむくろは少し笑って、上に指をさした。

「…てっぺんのやつ見れば分かりますよ!」

どうやら一番上に飾ったらしい。きょうやの表情が徐々に不機嫌になる。

「……届かないもん…」

「じゃあ見れませんねー」

けらけらと笑うと、きょうやの瞳が徐々に潤んできた。

「…むくろのいじわるー」

「えっあっ泣かないで下さああい!」

おろおろするむくろの後ろで、綱吉は取ってあげようかどうしようか悩んでいた。
結局、取ることは止めた。
その後、笹の葉を撤去しようとした時に、むくろの短冊に思わず目がいった。

「おりひめとひこぼしがあえますようにって…」

やっぱりまだ純粋だなと思ったのもつかの間、短冊の後ろにも何か書いてあった事に気付く。


きょうやくんと ずっといっしょに いられますように



やっぱマセてるよなあと、いつもの通り溜め息を吐いた。







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