「みなさーん!朝顔の種を植えますよー!」

「はーい!!」













綱吉の合図でクラスは盛り上がった。
今日は夏に備えて、朝顔の種を植える日だ。種を植えて、花が咲くまでの過程を観察するのが授業の一環として行われている。
実は直前までヒヤシンスの球根の根っこの観察と悩んでいたが、綱吉の意見でアサガオにした。

(ヒヤシンス根っこキモくね?)

「この線まで土をいれましょう!」

綱吉がアサガオ育成キットの中に入っていた、アサガオ専用植木鉢(青色)を持ちながら説明をする。
園庭の畑で園児達は各自植木鉢に土を入れ始めた。
ただ入れているだけなのに、園児達の頬や服が土まみれになるのはいつものこと。
タオルを用意しなきゃな、と綱吉は笑った。


「きょうや君きょうや君」

「なに?」

むくろがきょうやの傍にいるのも、いつものこと。
自分の植木鉢を持ってきょうやの隣で仲良く作業していた。

「なに色のアサガオが好きですか?」

「えー」

土をスコップでぺたぺたと叩きながら、きょうやは悩む素振りをした。

「あお」

「あお色?むらさきっぽいやつのことですか」

「そんなかんじ」

「…なんで?」

「…………から」

「?」

「……教えないっ」

ぷいっとむくろから顔を反らす。疑問符を頭に浮かべたむくろが小さく首を傾げると、きょうやは自分の植木鉢を持ってむくろから離れたところに走っていってしまった。
どうやら照れているらしい。
むくろ嫌われたとショックを受け、きょうやの照れ隠しには気付いていないかった。

「あっ!…きょうや、くん?」

「じゃあ次に種を配るから植えてくださーい」

むくろが立ち上がった途端、綱吉は園児たちに朝顔の種を配り始めた。
手のひらに乗っかった四つの朝顔の種と、遠くで土を掘っているきょうやを交互に見て、どうしていいか分からず、取り敢えず座り直して朝顔の種を植えることにした。

「うう…きょーやくーん」

「むくろ君、植木鉢はきょうや君じゃないよ」

「し、知ってます!」

クラスメイトに突っ込まれながらもむくろは大急ぎで種を埋めた。

「終わったら、自分のお名前をこの植木鉢に書いて完成ー」

むくろは出来上がった植木鉢の側面にサインペンで名前を書き始める。上品な言葉遣いのように昔から仕込まれていたのか、幼稚園児にしては上手な文体だった。

「むくろくんじょーず!」

「あたしのも書いてー」

「えっ!」

クラスの子がむくろの字を見て自分の植木鉢を差し出した。
それを合図にわっと広がり、たくさんのクラスメイトがむくろに群がる。

「字うまいな!」

「そ、ですか!」

字が上手と言われ、気を良くしたむくろは順番に名前を書いてあげた。
綱吉は困ったなあと頬を掻いていたが。

(自分で書くのが勉強なのに…)

まあいいか、とため息を吐いた途端、


「やだ!!」


甲高く大きな声が園庭に響いた。
むくろやクラスメイト、綱吉が何かと思って後ろを向くと、そこには頬を膨らませたきょうやがいた。

ずんずんとこちらに向かって、クラスメイトを押しのけてむくろの前までくる。

そして、そのままきょうやはむくろにぎゅっと抱き付いた。

「むくろは…っ!ぼくのなの!」

「ぶっ!」

沈黙の中、綱吉が噴き出した。

(どうしよう。俺の園児がホモに目覚めた)

「きょきょきょ」

むくろが顔を真っ赤にして、抱きつくきょうやの肩を押すが、力が強いのか離れてくれない。

クラスのみんなもポカンとしていた。

「いこっ」

きょうやはむくろを離し、次は手を繋いできょうやが元いた場所に帰ってく。

しばらくしてクラスメイトたちは諦めたのか2人を特に気にしもせずに作業を開始した。

「むくろっあのね!」

「はっはい!」

畑の端っこに2人は座り、きょうやはむくろと向かい合わせになった。
そして今度はきょうやの顔も真っ赤に染まる。
しばらく口紡いでいたが、むくろをじいっと見つめてから、

「そばにいなきゃ、ヤなの!」

恥ずかしそうに、だけどはっきりと言った。

「……!」

今度は、むくろがきょうやに飛び付く。

「そばにいます!」

「約束だよ!」

「はい!」


(本当に、どうしよう…)

無意識にラブラブな2人に、綱吉は本気で悩み始めることになる。











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