あれから数ヶ月。
むくろときょうやは互いにすっかり仲良しになり、綱吉もさくら組にだいぶ慣れてきた様子だ。
園児たちも綱吉の言う事はちゃんと聞くし、理想の幼稚園の姿だった。

まあ、ある事を除いては。










「それでは皆さん!さよーなら!」

「さようなら!」

綱吉の挨拶で身支度を整えた園児たちが帰っていく。
親の迎えを待つ子や、バスで帰る子もいる。
折り紙などの色紙がたくさん貼られた教室から出て行く園児たちを、綱吉は笑顔で見送る。

あと少しで今日も終わりだ。
幼稚園の仕事が嫌なわけではない、むしろ楽しいが、園児が帰った後のこの開放感も好きだった。

でも、まだ親が迎えに来ない子もいるので、気を抜いてはならない。

「きょうや君ー!遊びましょ!」

「おむかえくるんだけど」

「それまでの間だけ!」

「……分かった」

きょうやの迎えはいつも少し遅い。なぜだがは綱吉も分からないが、教室を最後に出ていくのはこの子。
今日はむくろの迎えも遅いらしい。
いつも一人で待っていたきょうやにとっては、仲良しむくろと一緒にいれてきっと嬉しい筈だ。
最初こそはきょうやもあまり喋らなくなったが、最近はうるさいんじゃないかと思うくらいに喋る喋る。
綱吉がこっそり溜め息をついた。

「本当は、寂しがり屋さんなんだよねー」

「?先生?」

「あ!先生ずるいです!」

きょうやの頭をなでる手をむくろが払おうとする。
綱吉がきょうやに触ろうとするとむくろがいつも割り込んでくる。幼いのにれっきとしたヤキモチ妬きさん。

「むくろ君はきょうや君が大好きなんだよねー」

「!!ちっちち違います!」

そうやって赤い顔を隠すように否定したって綱吉にしてみれば無駄な抵抗だ。

「ふん」

素直じゃないきょうやが、綱吉とむくろから離れて行ってしまうのも日常化してきている。


「きょーやー!!」

窓の外を見ているきょうやの体がビクリと跳ねた。
きた、と綱吉は笑う。

「…ディーノさん…園内で大声出さないで貰えますか?」

ディーノ。きょうやの親は金髪の男だ。そもそも親なのかも分からないが。証拠に、きょうやもディーノの事は呼び捨てである。
「わりいわりいっ」

「次からは気をつけて下さいよー」

同じ男同士として、綱吉とディーノはすぐに仲良くなった。

「…ディー…ノ」

「ん?ああ、帰るか!」

ディーノはきょうやの手を握った、途端、

「だ…ダメです!」

むくろの嫉妬の炎が燃えだした。

「きょ、きょうや君に触んないで…っ!」

「…むくろ?」

「あ、この子がむくろ君って子?」

ディーノはきょうやの手を離し、不機嫌なむくろに目線を合わせるようにしてしゃがんだ。
そして頭を撫でられ、むくろの肩が少し震える。

「きょうやが家帰ったら、むくろ君の話しかしないんだよ。だから大好きなんだなって。これからもきょうやを宜しくな」

「やぁ!ディーノっ!違う!」

ぎゅうっとむくろから離すようにディーノに抱きつくきょうや。
その光景に、むくろはまた、あっと声をあげる。
微笑ましくて、可愛らしくて、綱吉は頬が緩んだ。

「じゃ、帰るぞきょーや」

「…うん!ばいばいむくろ」

またな、とディーノは綱吉に挨拶をし、きょうやはむくろの頭を撫でる。おそらく先ほどのディーノの行動を模倣した動作だろう。途端にむくろの頬がぼふんと音を立てたかのように真っ赤に染まった。
慌てているきょうやが、ディーノの後ろを押して帰っていくのを、むくろと綱吉は手を振りながら見送った。

「良かったねむくろ君」

「なにがですか」

「きょうや君に頭撫でて貰って」

「よよよよくないです!」

綱吉はまた、可愛いなあと笑った。
そしてまたため息ひとつ。

「(こんな風に育てていいのかな…!?)」

2人の将来が心配で仕方ない綱吉だった。



「あのね、今日ね、むくろがね」

「(やっぱりむくろ君の話なんだな…)」

きょうやに友達が出来たのは嬉しいが、内心少し複雑なディーノであった。









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