さくらの木には さくらの妖精さんがいて いつでも僕たちを見守ってるそうだよ 桜の木の下でむくろと眠っていたきょうやは、ふいに目が覚めた。 春なのに少し肌寒い、まるで冬のような温度に身震いをする。 「…むくろ…?」 辺りを見渡すとむくろがいない。 むくろはおろか、眠りにつく前とは全然違う世界だった。 どこを見ても葉の無い木ばかり。 気温といい、景色といい、まるで冬だ。 「どこ……」 ふいにくる焦燥感。不安がきょうやの中に積もっていく。 「……い…やだ」 不安に耐えきれず、瞳を涙で濡らした。 すると、潜めるように聞こえてきた涙声。 「だれ…!?」 「?」 それは幹の後ろからで、きょうやはなにかと思って見ると、一人の少女がしゃがんでいた。 「……泣いてるの?」 「………泣いてない」 「うそつき。泣いてるよ」 少女の瞳は桜のようなピンクの色。そこから大きな雫をぽたぽた流して、頬を濡らしてた。 慌てて拭うも、目敏いきょうやには勝てなかった。 「どうして泣いてるの?」 自分より背の高い少女の隣に座る。 「…痛いの……」 「え?」 「…木に刺さってるの…!」 「なにが……!?」 そう言いかけた途端に目の前が霞んで、意識が遠のいた。 −−−−−− 「……や…く………!!」 きょうやはぱちりと目を開ける。 大きな瞳に移るのは担任の綱吉先生と困ったように笑うむくろと、大きな桜の木。 先ほどの少女やあの景色はどこにもなかった。 「きょうや君ようやく起きた!」 「おひるごはんの時間です!」 「……さっきの子は…?」 「え?」 きょろきょろと辺りを見回す。 そこでようやく、さっきのは夢だと気づいた。 「…なんでもない……」 「そう?じゃあ教室戻ろうか」 綱吉が出した手をきょうやはパシンと弾く。 むくろは隣で笑っていた。 −痛いよ。 「!?」 「きょうや君?」 「いまっ、声が!」 「なんのことですか?」 −痛いよぉ…! 「ほら!」 「??」 「痛いって…」 きょうやは教室に向かう体を返し、走り出した。 「きょうや君!?」 「ま、まってください!!」 きょうやは見つけた。 先ほどの満開の桜の木の幹にスコップが刺さっているのを。 園児たちが遊んで居たのだろう。自分がいたときには気付かなかった。 「…これ…かな」 スコップを抜こうと手に力を込める。だがなかなか抜けない。 園児の力不足か、深く刺さっているのかは分からなかった。 「きょうや君!なにしてるんですか!」 「抜かなきゃ、助けなきゃ!」 「??抜けばいいんですか?」 きょうやの小さな手にむくろの小さな手が重なる。 二人が力を込めたときに、勢いよく抜けるスコップ。 「!」 「うわあ!」 勢いが良すぎて二人は尻餅をついてしまった。 −ありがとう むくろが瞳に涙を溜めているのを小さく笑った時、確かに聞こえた夢に出てきたあの子の声。 慌てて桜の木を見ると、少女が笑顔で笑って立っていた。 きょうやが瞬きをしたら、消えてしまったけれど。 「…さくらの妖精さん?」 「きょーや君…痛いですー!」 「むくろ!さくらの妖精さんだよ!」 「…?さくらの…妖精さん?」 むくろはがしりと肩を掴まれる。多少興奮気味のきょうやに目を白黒させながら首を傾げた。 「きょうや君は変な子ですね」 「!…変じゃないもん…本当だもん!」 きょうやが唇を尖らせる姿にむくろは笑った。 「じゃ、いるってことにしておきます」 「本当だもん!」 「あ、頭にさくらの花びらついてます」 「……もういいっ」 きょうやの頭を撫でるかのように、桜の花びらが落ちてきた。 それは夢に出てきた少女の瞳の色と似ていた。 ←→ トップに戻る |