たくさんの人がイヤなら
ぼくたちだけの
ふたりだけのところに行こう?
ね、ほら、キミのえがおが見れる。
そのえがおがダイスキなの。











「きょうやくん、きょうやくん

、ここにもありました!」

頭の上にたくさんの桜の花びらを乗せたむくろが、もう何枚目だかわからなくなるくらいの花びらを差し出した。

「うん」

まんざらでもないきょうやは、同じく頭にたくさんの桜の花びらを乗せて、それを受け取る。

お遊びの時間はまだあるらしく、しばらくしてから園庭には幼児が遊具やら砂場やらを求めて遊びにきていた。
その子たちをきょうやは目で追いながら、むっと唇を尖らす。

「人…いっぱいいる…」

「きょうやくん?」

呟いたその一言にむくろは小首を傾げる。

「…ここ、やだ…」

きょうやは悲しげな瞳でむくろに寄り、きゅっと腕にしがみつく。
その衝撃で集めた桜の花びらパラパラと落としてしまった。

「…じゃあ、人のいないところにいきましょう!」

むくろは、木の幹を掴み、ひょいっと太枝に登った。

「ここならだれもいませんよ!」

にっこり笑うと、きょうやはふるふると頭を振った。

「?」

「そっち行けないよお……」

どうやらきょうやは木登りが出来ないらしい。
むくろが自分の届かないところにいるせいで、きょうやは寂しくなり、まん丸の瞳からポロポロと涙を流してしまった。

「きょ…きょうやくん……」

「ふえぇえ…むくりょー」

むくろに届くように目いっぱい手を伸ばしながら泣くきょうやに、自然にむくろの瞳も潤む。

「きょーやくーん!」

ジャンプしてきょうやに飛びつく。
ぎゅううと抱きしめれば、安心したように泣き止むきょうや。

「ひぅっ…なっ泣かせてごめんなさああ…」

「むくろが泣いちゃってるじゃん」

「なっ泣いてないもん…!」

「泣いてる!」

「ふ…きょ、や君のいじわるぅぅ…!」

きょうやを抱きしめたまま、むくろは再び泣き出した。
固く瞑った瞳から、ポタポタたれる雫がきょうやの頬をも濡らした。

「むくろ、ごめんね?」

抱きしめる手に力を込めれば、ピタリと止まるむくろの声。
むくろはきょうやから離れ、嗚咽を出しつつも、濡れた頬をふくこともせずふにゃりと笑った。

「許してあげますっ!」

「ふふっ」

お互いに笑いあえば、風で桜がヒラヒラと舞う。


「そうだ!じゃあこうすればいいんです!」

むくろがポンと手の平に拳を乗せた。
そしてきょうやの手を握り、桜の木の裏側に移動する。
ここの幼稚園の名物である桜の木は、大人がふたりで抱えても大きいくらいなので、幼児だと尚更大きい。
幹に吸い込まれるようにふたりは裏側に移動した。

「これならたくさんの人は見えません!」

「…ほんとだ!」

まるでふたりだけの世界みたい、ときょうやが笑った時、むくろの頬が赤く染まった。

とくん

心臓の鼓動が早くなる。

「…むくろ?」

「は、はい!なんですか!」

「……眠くなった」

ふあ、と欠伸をして、きょうやは目を瞑り幹に寄りかかった。

「クフ、おやすみなさい!」

むくろも隣に座り、目を瞑った。


(ドキドキしたな…)


お互いがそう思ったなんてまだまだ内緒の話。










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