「むくろ…ろくどうむくろです!」

珍しい髪型に、珍しい目の色、珍しい名前。
珍しいだらけのその子供に、綱吉はただただ驚くばかりだった。





「きょうやくーん…先生とジャンケンしようよー…」

「………」

あれから、きょうやは全く口を開いてくれなかった。

(触ろうとするとビクつかれちゃうからな…どうしよう…)

なんとかきょうやと仲良くしたいという教師的願望がもやもやと膨らむ。
だから先ほどから綱吉は、きょうやに話しかけていた。

(この子の好きなものとか分かれば!)

そこで綱吉は気付いた。
きょうやは綱吉から視線を背けているだけでは無く、窓の外の“何か”を見ている。
その目線を辿ると、そこにあったのは、今や綺麗に咲き誇る、

「桜……?」

淡いピンクで彩られた満開の桜。

「きょうや君、桜好きなの?」

「………うん」

(喋った喋った!!)

「さくら、みたい」

「見たいの?」

するときょうやはこくんと頷き、椅子から立ち上がる。
しかし、綱吉は背中で眠ってしまった、はやとに気付いてはっとする。

(俺が、園児たちを置いて外に出るのもなあ……)


せめてきょうや君と一緒に行ってくれる人がいれば…と考えていると、後ろから待って下さい、と舌っ足らずな声が聞こえた。

「ぼくも外にでたいです!」


ろくどうむくろです、と先ほど可愛いらしく挨拶してくれたその子を思い出し、綱吉はむくろに優しく微笑んだ。

「じゃあ、きょうや君お外で遊びたいみたいだから、一緒に行ってあげて?」

「はい!」

むくろはにっこりと笑うと、きょうやに近付いた。

「むくろです。宜しくお願いしますね!」

「うん……ぼくは…きょうや…」

(うわ、喋った!俺の前だとなかなか喋んなかったのに!)

自分より遥かに幼い幼稚園児に、難題を軽くクリアされたようで、少し嫉妬してしまう。

(やっぱり同い年は同い年なりの親しみがあるのかな……)

はあ、と綱吉は溜め息を吐いて、ひとまずきょうやはむくろに任せる事にした。

「きょうやくーん待ってくださーい」

ペタペタと地面を踏みつけむくろは歩いているきょうやに走り寄る。きょうやはそんなむくろを見てから、む、と口先を尖らせたあと、また歩き始める。

「きみが、おそいからだよ」

「だってくつがはけなかったんです…!ああ待ってきょうやくん!!」

(本当に任せて大丈夫なの…!?)

綱吉は教室から見える2人に溜め息を吐いた。







「きょうやくんってさくらが好きなんですか?」

むくろが桜の幹に寄りかかりながら、きょうやに問う。
一方きょうやは、むくろから少し離れたところで、しゃがみこみ下から上を見上げるようにして桜を見つめていた。

「好きだよ」

「さくら、きれいですよね」

「うん」


夜空に浮かぶのが満天の星ならば、青空に浮かぶのは満開の桜の花。

ふわりふわり

春のそよ風がきょうやとむくろの柔らかな髪の毛を揺らして桜の木へと飛んでくる。


「あ、」

むくろは自分の目の前に落ちてきた桜の花びらを拾うと、きょうやに近付いた。

「みてください!さくらの花がおちてきました!」

「…ほんとだ」

まだ落ちたばかりで淡いピンクのそれは、きょうやにとってもむくろにとっても宝石のようにキラキラしていて、

「きょうやくんにあげます」

「…いいの?」

「はい。またさくらの花見つけたら全部きょうやくんにあげます」

手をお椀の形に作り、その中に桜の花びらを入れると、きょうやはまるで桜のようにふんわりと笑った。

「ありがと、むくろ」


ドキン

(あれ?)

そんな、音が聞こえた、気がした。

「…どうしたの?」

「な…なんでもないです!」


そっぽを向いてまた桜の花びらを探すむくろに、きょうやは疑問符を浮かべていた。

むくろの頬が桜色に染まっているのに、きょうやはおろか本人だって気付いてないだろう。










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