お前の作ったケーキが食いたい。
誕生日プレゼントは何がいいか聞いて返ってきた答えがこれだった。そんなもんでいいのかもっと上等なもの言っていいんだぞと何度も聞いた。けど答えは変わらず、終いにはお前が俺のために作ったのがいいんだよ!と頬染めながらかわいいこと言われたもんだから当然わたしのやる気は最高潮。じゃあ任せとけ!と大見得を切ったのは三日前のことだった。
「ハッピーバースデーイ!」
「…で?」
「超人気店の季節限定フルーツケーキ!今が旬のチェリーやメロンをふんだんに使った絶品スイーツだよ!奮発しちゃった!」
「んなこと聞いてねぇし」
「新茶の季節で抹茶系もいっぱいあったから買っといたよー!このティラミスとかまじオススメ」
「手作りケーキは」
「…さーほらはやく食べよう!」
「手作りケーキは!」
バン!と机が激しい音を立てた。ちらりとそちらを見やるととてつもなく鋭い眼光が容赦なくわたしを突き刺していた。
「…すいませんでした」
「作ってねーの」
「やることはやった。でも死んだ」
料理とかお菓子作りは基本人並みにできる。だからぶっつけ本番でいいやと思って昨日やる気満々で作った。スポンジもホイップクリームも味見してないけど多分それなりに良くできた。ただ、駄目だった。失敗したのだ。
「飾り付けの段階でアウトだった。だから無し!」
そう、わたしにはケーキを飾り付けるセンスがなかったのだ。なんとなくクリーム塗ってみてなんとなく絞ってみてなんとなくフルーツ置いてみたりなんてしてたらあれ、なんか変だな、あれ、修正できない、あれ、あれ、あれ。そうして完成というかもうどうしようもなくなった頃には生ごみが出来上がっていた。
「じゃあ捨てたわけ?」
「いや…家族に処理してもらう予定」
「冷蔵庫にあんだな」
「ええっ!」
そう言って立ち上がったブン太は何の断りも無しに人様の家の冷蔵庫を開け放った。親居たらぶちギレられてるぞこれ。
「おっ、みーっけ」
抵抗は空しくもテニス部の力に敵わず失敗に終わった。ブン太の手には生ごみよろしく昨日の惨劇。ああもう死んだ。
「別にいうほど悪くねーじゃん」
「菓子作りがプロ級なやつにフォローされても切ないだけだわ」
「フォローっつか、生クリームの上にフルーツ乗ってるだけだろぃ、これ」
そう言ってブン太はその物体にかぶり付いた。まさかそのまま食われるとはさすがに思っていなくて声にならない悲鳴をあげるわたし。だけどヤツはそんなわたしにお構い無しにさらにもう一口食べやがった。味見してないのに最悪だ。
「普通にうまいじゃん」
「うそだ」
「嘘じゃねーって!俺的にはこのクリームもうちょい甘さほしいけど…、あ、スポンジにメープル入ってね?」
「…入れた」
「うまいけどちょい少ねーな。あとバニラエッセンス入れるともっとよかった」
一口食べてしゃべってまた一口食べてしゃべって。そうこうしているうちにそれなりの大きさだった物体はもう半分以上も姿を消していた。
「ブン太くん、無理しなくていいんだよ?」
「まずけりゃ食わねーし」
「でもさ…」
「そりゃ俺が作った方がうまいけど、そういうんじゃねーだろぃ」
じゃあどういうことだよ。そう聞けばブン太は黙って、またケーキにかぶり付いた。言いかけてやめるとか質悪い。ねぇ、と続きを急かすように言うとブン太はついに最後の一口になったものもぱくりと頬張った。
「…だから、好きな女が作ってくれたもんは無条件にうめーの!」
口のまわりを生クリームだらけにさせてはにかむブン太はなんだかとても満足気だ。
「つーわけで第二作目楽しみにしてっから」
「…じゃあご教授お願いします」
「まかせろぃ!俺の胃がっつり掴んで一生離れねぇくらいにしてやるよ!」
「…えっ」
ちょっとちょっと、それ意味わかって言ってる?わかって言ってるなら相当質が悪いぞこいつ。まんまとやる気みなぎっちゃったじゃないかちくしょう。
がっつり掴んでやるから覚悟しとけよ
120420
丸井くんハピバ!