夢の続き | ナノ


幼なじみから久しぶりに電話がかかってきた。元気?うん、そっちは?特に用事があったわけではないらしくそんな他愛もない会話が自然と続いていく。高校を出て働くようになりもう一年が経つ。そう言えば彼女は高校から美容師の専門校に行ったんだっけ。今何してるの?会話が切りよく終わるころふとした疑問をそのまま投げ掛けた。

「美容師の資格とれて、今働いてるんだー!」

まあまだ下っ端なんだけどね!そう嬉々とした様子の彼女の声が耳に響いた。

どくり。その途端、胸が強く脈打った。
それから少しして電話を切ると私はベッドに倒れ込んだ。彼女の楽しそうな声が頭から離れない。夢を叶えた彼女の声は生き生きと、楽しそうに輝いていた。
自分はどうだろう。毎日同じ起床、同じ出勤時間、同じ労働をただ淡々と機械のように繰り返して。自分の中から彼女のような輝きを何一つ感じられない。どくどくと心臓が嫌な音をたてる。私は、何をしているの。自分の「今」があの電話によって崩れていくようだ。絶望。それを振り払うように目を閉じると夢のために県外の学校へ行った子や猛勉強して有名な学校へ行った子を思い出してさらに心が沈んだ。
私にも、将来の夢はあった。だけど家はとても裕福なんて言えなくて学校に行くお金なんてなかった。そして私には才能もないし、無理だと、自己完結をして今の道を選んだ。なのになのに。忘れていた夢が彼女の声によって無情にも煌めいた。だけど無理なんだ。私にはそんなお金も、才もない。儚い煌めきに胸が押し潰されそうになって、それを振り払いたくて外へ飛び出した。

「あ、ども」
「…財前、くん」

するとなんともタイミングの悪いことに隣に住んでいる学生の財前くんと鉢合わせた。彼もまた自分の夢に向かって専門校に通ってる。今、一番会いたくなかった人。

「…なんや顔色、悪いで」
「 、っ」

ぽん、と頭に手を乗せられた。何を聞くでもなく、ただ、そう言って。その手の温さが何故だかひどく安心して、涙を誘発した。財前くんは何も言わず私の頭をそっと胸に引き寄せて。それが私の口を開かせた。

「…あんたは、どうしたいん」
「金とか才能とか、そんなもん無しに。あんたはどうしたいんや」

財前くんはただ静かにそう問うた。私は、どうしたい。全てを忘れたただの私は、わたし、は

「あんたは逃げとるだけや。金とか才能とか、そんなもんに託つけて、逃げたんや」
「金なら稼げばええ。奨学金とか何でも使うたらやれんことはないはずや」
「才能がないならその学校で身に付ければええんや。そのための学校やねんから」

ひとつひとつ、撃ち落としていく。私の薄っぺらな逃げ口上を、彼の抑揚のない声が、丁寧に丁寧に。涙がとまらない。逃げることを否定された。どうせとか、私なんかという言葉全てを取り上げられた。私は、もう、どうしていいかわからない。

「がんばれ」
「泣くほど悩んで苦しむほど叶えたい夢なんやろ」
「本気なら死に物狂いでどうにかできるはずや」
「あんたなら、出来る」

がんばれ

彼の言葉が、鼓膜を、脳を、胸を。強く揺らした。




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