ハロウィン財前 | ナノ


「トリックオアトリート」
「え?」
「トリックオアトリート」
「うわわわ!なにその格好!吸血鬼?やばい写メ写メ!」
放課後、いつもより遅い時間に部室に現れた財前が白いシャツに黒のマントを羽織った姿で現れた。よく見るとご丁寧に黒のつけ爪まで付けている。聞けば「小春先輩とユウジ先輩にやられたんすわ…」とため息混じりに一言。その表情を見るに無理矢理されたことがわかって可哀想だが、正直なところ二人の行動はナイスだと思った。
「で、どうなんですか」
「はい?」
「お菓子。持ってはるん?」
「お菓子?」
「トリックオアトリート言うたでしょ。持ってへんならイジメたりますよ」
にやりと不気味な笑みを浮かべて長い爪を私の頬に滑らせた財前。何やら言い知れぬ恐怖を感じて私は慌てて鞄の中を漁る。だって悪戯じゃないもんねイジメって言ったもんねこの人。
「カウントダウーン」
「は!?ちょ、ちょっと待って!」
「さーん、にー…」
「待って待って!どっかにあるから!」
「いーち…」
「あ!あった!」
「ぶっぶー時間切れですわ」
「は… 痛あああ!?」
飴を見つけ顔をあげたと同時にグイッと襟元を横に引っ張られた。突然外気に触れた肩に驚いたのも束の間、さらけ出されたそこにあろうことか財前が噛みついて、思わず悲鳴をあげる私。いやまじすごい痛いんですけど何事これ。
「痛い!まじ!なに!?は!?」
「ふぁふぇふぁんはひはへん」
「ぎゃああ!噛んだまましゃべんな!」
「いてててて髪引っ張んなや」
「あんたが悪 うひぃ!」
「いたっ」
財前の髪を思い切り引っ張ってどうにか口を離すことに成功。と思いきや再び私の肩に顔を埋めて今度は舐めやがった。反射的に財前の頭をどついたら今度こそ離れた、が、肩に痛みと舌の感触が残ってなんか泣きそうだ。
「暴力反対」
「あああんたが悪い!」
「痛い言うたからアフターケアしてやったんやないですか」
「舐めて治るか!そもそも噛むな!」
「やって俺今吸血鬼やし先輩菓子持ってへんし」
「飴あるっつっただろ!」
「飴なんかいらへんって言うたやろ」
「ふぁふぇふぁふぇ言われてわかるか!」
「…」
私の言葉を最後に室内は静まり返った。まったく、なんか叫びすぎて息切れた。荒くなった息を整えながら急に黙りこくった財前をちらりと見ると、口を尖らせてあからさまにご機嫌ななめモードを発動させていた。
「なに拗ねてんの」
「拗ねてへん」
「…あのね、なんで拗ねてんのか知らないけど拗ねたいのはこっちだからね」
肩に指を這わせると一部がでこぼこしているのがわかる。財前の歯形だ。歯形が残るくらい強く噛まれてご機嫌ななめモード発動したいのは私の方だ。そう言うと財前はプイと顔を逸らした。
「やって先輩普段取っ付きにくいしこういう時にでも色々しとかな」
「なんだ色々っておい。しかも取っ付きにくいっておい」
「それに菓子より先輩の方がうまそうやってんもん」
…いや、「もん」じゃねーし。口尖らせてなにしれっととんでもないこと言ってくれてんだろうね可愛くな…くもないし畜生。なんて文句は頭に上った血と熱であっという間に弾けて消えた。




ハロウィンという存在を忘れていたわたくし…
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