後輩財前 | ナノ


事の発端は、わからない。気付いたときにはもうすでに私の背中は机とこんにちは。そして視界いっぱいには天井と、後輩の財前がいた。

「え、え、なにごと」
「へぇ、こんだけやったらさすがに慌てるんやな」

私を見下ろす財前が僅かに口角を上げそう言った。慌てる?そりゃあ突然こんなことされたら誰だってそうなるだろう。一体なんなんだ。机から出た足がぶらぶらと不安定で体勢的になかなか辛い。体痛いなーなんて、この状況にそぐわないであろうことを無意識のうちに考えていたら先程まで上がっていた目の前の口許がどんどん下降していくのに気づいた。

「…余裕やな、なに考えてはるんですか」

途端に不機嫌オーラを全開にした財前の顔が、ぐっと近付く。間近にある瞳は苛立ちと切なさを孕んで強く私を見つめる。

「先輩、俺はあんたにとって可愛い後輩?それとも弟ですか」

財前が言葉を発する度に唇の動きや吐息が自分のそれに伝わって、どくりどくりと心臓が騒ぐ。彼の言葉が耳に、入ってこない。唇が触れそうで、それどころじゃない。

「…ざいぜ、ん」
「…なんですか」
「はな、れて」
「…もしかして、今、意識してはるんですか」

俺のこと。そう確かめるように放たれた声。私の反応を見て嬉しそうに再び上がった口角はすでに確信を得ていて、ひどく無邪気に何かを企んでいるようだ。

「せやな、例えばこの口、とか」
「…っ」
「先輩、心臓めっちゃ動いてますわぁ」
「っはなれ、」
「顔も赤なってる。これって、なんでなん?」

私にのしかかる財前にこの心臓の音が伝わっていることに思わず顔が赤くなって、それすら指摘されて、恥ずかしいことだらけで気が狂いそうだ。ほんの少し前まで小生意気で可愛い後輩だった彼は、確かに目の前に居るはずなのにもうどうにも見つけ出せない。

「好きや、先輩のこと。ほんまは今すぐこの口引っ付けとうてしゃあない」
「ざい、ぜ…」
「もっかい聞きます、俺は先輩にとってただの可愛い後輩ですか」

ああ、そんな物欲しそうな、扇情的な目で私を見ないで。私の中の可愛い後輩像が音を立てて崩れていく。どくんどくん。それでも鼓動は速度を増していくばかり。

「せんぱ…」

だけど、そうだな。今までのかわいい君もよかったけど、そんな獣みたいな目をした君も素敵かもしれない。触れそうだったその唇に自分のそれを押しあてて、目を見開いた財前を見つめながら私はにやりと微笑んだ。

そっちがその気なら、私も喜んで食べられてあげるよ。



反撃開始
~1017
鈍感だけどやり手な先輩、が書きたかっ、た
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