餌食 | ナノ


「お前さん菓子は好きか?」
「うん、好きだけど?」
「貰ろうたんじゃが…一緒に食わんか」
「え、いいの?」
「おう、俺一人じゃ食えんけの」

突然現れた仁王くんがそう言って袋から出したのは大量のスナック菓子。チョコからポテチまで選り取りみどり机にばさりと散らばった。一体こんな量誰に、そう考えてやめた。この男にものをあげる相手なんて女の子しかいないだろう。さすがだなあ、と感心しながら散乱するお菓子の中のひとつを選んだ。

「じゃあいただきまーす」
「おー、いっぱい食べんしゃい」
「それにしてもすごい量だね。いいなあモテる男は」
「そうかのう」
「あ、そうだ丸井くんにもあげれば?あの人お菓子大好きじゃん」
「だめじゃ。これ以上餌与えたら幸村に怒られる」

ああ、だから丸井くんがいない今お菓子出してきたんだ。そう言うと仁王くんはまあの、と少し困ったように笑った。大変だねえなんて他愛のない会話を続けながらお菓子をぼりぼり。うん、至福の時ってやつだ。

「お前さんのそれ美味そうじゃな」
「食べる?」
「いいんか?」
「もともと仁王くんのでしょ。はい」
「おお、さんきゅ」

あ。仁王くんに差し出したそれは手で受け取ってくれるのかと思いきやそのまま食べられた。思わず出た声に彼は不思議そうに首を傾げてもしゃもしゃと口を動かしている。ああ…まあ君はそういうの慣れてるだろうからね。仁王くんにいちいちときめくとか馬鹿らしいか。一瞬騒いだ心臓はその考えに至りすぐに大人しくなった。

「ほれ、俺のもやるぜよ」
「え、ありが…」
「あー待ちんしゃい」

差し出されたものを取ろうとしたら手を引っ込められた。え、なんで。怪訝な表情を惜し気もなく彼に向けると何故か怪しげな笑顔が帰ってきて。それから ふに、と唇にお菓子が押し当てられた。

「このまま食べんしゃい」
「はあ?」
「ええから」

はやく、そう急かす彼の目はやけに迫力があり有無を言わせぬそのオーラに う、と息が詰まった。はやく。幾分低くなった声でもう一度そう言われれば、渋々そのままかじりつくしかない。

「美味いか?」
「ん…うん、」
「そりゃ良かった」

食べる様子をまじまじと、それも笑顔で見つめられ否応なしに顔が熱くなる。そのことに仁王くんが気付かないはずもなく、彼の喉元がくつりと動くのがわかった。

「…かわいいのう」
「な…、むぐっ」
「餌付けしよるみたいじゃ。…そそるぜよ」

最後の一口を無理矢理押し込まれ言葉を発することができない。唇に当たる彼の指がうっかり入って来そうだ。口を開けられず視線だけで離せと必死に訴えると、また くつりと笑って、彼はその指先を自分の方へ戻しあろうことかそこにキスを落した。

「っ!」
「ん、チョコが付いとった」

けろりとした顔でそう言われても言葉を返すことが出来なくて。固まる私を前に一瞬ニヤリと色っぽい笑みを浮かべた彼に、してやられたと、頭の隅で私が嘆いた。





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口調はてな…
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