校舎裏の庭に足を運ぶと木に背中を預けて気持ち良さそうに寝息を立てる芥川くんを見つけた。
最近学園内で流れている噂。寝ている芥川くんに触ったりお供え物をすると幸せになれるって、友達が言っていた。そんなのきっと誰かが冗談で言い出したこと。嘘だってわかってる、わかってるけど、最近ごくごく些細なことながら嫌なことが立て続けに起きて気分が落ちていた私は無意識のうちに噂の彼を探していた。それは多分、藁にもすがるってやつだったと思う。
ぐっすりと眠る彼の周辺にはお菓子がいくつか置かれている。あの噂を聞いて誰かがお供え物をしたんだろう。もしかしたら本当にご利益があるのかも、なんて散らばるお菓子を見ながら淡い期待を抱いた私はそっと彼の側に寄りしゃがみこんだ。
「 頭なでたりするとええらしいで 」
友達の言葉が頭の中で再生され、そっと手を伸ばす。だけどふと、芥川くんの顔を見てその手を止めた。安らかに眠る彼が綺麗で、まるで天使みたいで、なんだか触れてはいけないような気がした。
「幸せそうに寝てるなあ…」
本当に幸せそうに眠る彼にこっちまで心が穏やかになる。ああ、そうか。もしかしたらあの噂はこういう意味だったんじゃないかな。幸せというのは癒されるってことで、それで元気になれるって。そう思うと妙に納得できた。
「ありがと芥川くん、元気でた」
また来るね。彼の好きだと言うムースポッキーをお供えして、聞こえるはずもないけどそう彼に向けて呟いて、私は来た道を戻った。
「…、待ってる、よ」
木の葉のそよぐ音に紛れて、そんな声が聞こえた気がした。
0904-0905
ネタは今月号のSQから