結婚祝い | ナノ


学生の頃、大好きだった先生がいた。かっこよくて優しくて授業もおもしろくて、まさに理想の先生であり男性なその人はとっても人気者で。私はそんな先生に恋をする一生徒。この恋が叶うことはないと分かってたし望んでもいなかったけど、それでも先生に会えるから学校が楽しくて、先生が誉めてくれるから勉強もがんばって。あの頃の私の殆どは先生で出来ていた。

だけどある日、先生は左の薬指をきらきらと光らせて幸せそうに私たちの前に立った。そして結婚する、と一言。お相手は私もよく知る隣のクラスの先生で。それを聞いた瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れていくのを感じた。大好きな先生が、みんなの先生が、ひとりのものになった。すごく悲しかった。だけど先生の幸せは祝ってあげたいと思った。それと同時に相手の先生が羨ましくて羨ましくて恨めしくて。別れればいいのにとも思った。

「ねぇくら、本当に言うの?」
「おん。どうせその内知れてまうんやから、それやったら俺の口から言いたい」

穏やかな笑みを浮かべてそう言った彼の薬指はきらきらと光っていた。それはそれは幸せそうなそれらは、あの頃の記憶と重なって、だけどあの頃と違うのは自分の指にも彼と同じ幸せの光が瞬いていることだった。

「私あの子たちから殺されちゃうかも」
「そんなことあらへんって。きっとみんな祝ってくれる」

高校を卒業して私は教師への道を進んだ。大好きだったあの先生のようになりたかったから。そうして大学に入り猛勉強の末、念願の教師になって。赴任先であるこの場所で彼と出会い、いつしか恋に落ちた。

彼が教壇に立つ。幸せに輝く笑顔があの日の記憶と重なる。ああ、先生、あなたはあの時こんなにも苦しかったのですか。生徒の憧れを奪って、それでもどうしようもなく幸せで。ごめんねとか祝福してほしいとか、いろんな思いでごちゃごちゃな気持ちを抱えていたのですか。

「…せんせ、結婚おめでと」

私の前に一人の女子生徒が立った。悲しみを帯びた複雑な表情。この子はきっとあの頃の私。大好きな先生の幸せを心から祝ってあげられなかった、純粋な女の子なんだ。

先生、ごめんなさい。あの日あなたたちの幸せを心から祝えなくて。今ならわかる。先生がどんな思いでいたのか。ごめんなさい、ごめんなさい。すごくすごく遅くなったけど、蔵ノ介の隣に立った今、やっと本当の意味を持ってこの言葉を言えるよ。


「 先生、どうか末永くお幸せに 」




わたしも幸せになります
~110901

書きかけたまま忘れてたやつを引っ張り出してみた
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テーマ「人外ファンタジー」
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