わんのもの | ナノ


「ん」
「…ん?」

突然甲斐が私に拳を突きつけた。なんの前触れもなくいきなり現れた眼前のそれに目を丸くさせ頭の上にクエスチョンマークを表示させる私。それをみて何やらいたずらっ子のような笑みを浮かべた甲斐は次いでその拳から しゃら、と小気味いい音を立ててシンプルなリングが着いたネックレスを宙に垂らした。

「これやるさー」
「は…?なんでまた」
「作ったんばぁよ」
「いやだからなんで私に?」
「まあいいやんに。黙ってもらっとけ」
「え、あー、うん。ありがとう」

ほんと急だななんて思いつつ目の前のそれを素直に受け取る。掌にあるそれは手作りにしてはとても良くできていて、ぴかぴかと綺麗だった。いきなりでびっくりだけど、内心ちょっと嬉しい、とか。

「貸してみ、付けてやるさー」
「えっ、い、いいです自分でしま、す」
「ほら髪よけろー。邪魔やっし」

言葉を言い終えるより早く私の手にあったそれを取り背後に回った甲斐。その声が存外近くてどきりとする。どくどくとうるさい心臓を押さえつけながら言われるまま大人しく髪を横に流すと後ろから腕が回され、ネックレスが私の首に付けられた。一連の動作がなんだかやけにスローモーションに見えて回ってきた腕や首に触れる手の感触に鼓動が加速した気がした。

「ほい、出来たさー」
「あ…ありがと」
「…わんの方こそ、にふぇーでーびる」

ぼそり、耳に吹き込まれるように囁かれた言葉。びっくりして飛び上がるように振り返ると、甲斐は一瞬、とても満足そうに微笑んで去っていった。
どくどく、ばくばく。嵐のようにこの場を荒らして消えたあいつにまだ心臓が騒いでいる。今日の甲斐はなんか変だ。

「…とまあ、そんなことがあったんだ」
「へぇ…あの甲斐クンがねぇ…」
「あれってなんなの?暑さで頭が沸いたの?」
「彼も男だったんですねぇ」

その事を彼と仲の良い木手くんに話すとなにか感心したようにそう言った。なにそれ、っていうとただ楽し気に笑われた。意味わかんない。首にかかったシルバーのリングを指先で弄びながらそっとため息を吐いた。

「…あ」
「なんですか」
「なんか…書いてる」
「どれ、貸してみなさい」

ふと視線を落とすとリングの裏側に文字が刻まれているのに気づいた。しかし悲しいかなそれは私の苦手な英語で、しかも筆記体だから読めなかった。

「You are mine.」
「?ど、どういう意味?」
「…今日は甲斐クンの誕生日です」
「なに急に…って!え、うそ、知らなかった…!」
「でしょうね」
「どどどうしようプレゼントあげるどころかもらっちゃったし」
「まあ落ち着きなさいよ」

焦る私に何故か楽しそうに微笑む木手くんは、おもむろに私の胸元にあるそれを摘まむと目の高さまでそれを掲げた。

「君がこのネックレスを付けた時点で甲斐クンへのプレゼントは済んでいますよ」
「は…?なんで?」
「それは自分で考えなさいよ」

木手くんはただ笑うだけでそれ以上はなにを聞いても教えてくれなかった。なんか言い逃げされてばっかり。ほんとなんなんだこいつら。

その後英語の授業でその意味を知って発狂することになるなんて、私はまだ知らない。




お前は俺のもの
~110831

遅くなったけど甲斐くん誕生日おめでとう!
べたべた王道テンプレネタ大好物ですごめんなさい(^o^)
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