ゴロゴロ、空が唸り声をあげている。どしゃ降りの雨と同時に雲の隙間から時折覗く雷が、何かを引き裂くような音を轟かせて落ちていた。ピカッ、ゴロゴロ。
「こないなとこで何し」
「ぎゃああああああああ!」
外が光ったと同時に耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。今のは近い。かなり近かった。
「…なんや、自分まさか雷怖いん?」
「は?意味わかんねそんなわけないじゃん意味わかんね」
「せやったらなんで机の下おんねん」
「せ、狭いとこが好きなんだよ」
突然目の前に現れた財前に苦し紛れの嘘を吐けばツッコミを入れるでも笑うでもなく、ただただ冷たい視線を送られた。何故だろう、とても虚しくなった。
「机の下におっても雷は回避できひんって知っとりますか〜」
「知ってますけど?え、なに?馬鹿にしてんの?」
「おん」
「うぜぇ…!」
なんだこのピアス野郎こいつに落雷しないかな。なんて考えているとまたしても轟音が鳴り響いた。思わずびくりと揺れる体。それを見た財前が、不思議そうに問い掛ける。
「なんで雷怖いん?」
「…ちっさい頃隣の家に雷落ちたの目撃したから」
「トラウマっちゅーやつ?」
「まあ…、そんな感じ」
ふーん。てっきり何かからかわれるのかと思ったら、そんな相槌を打たれただけだった。からかわれるのも嫌だけど自分から聞いておいてふーんで済まされるのもなんかアレだ。そう思いつつ財前を見ているとヤツはふらっと自分の席に戻っていった。何だったんだ、ちょっかい出されただけか。なんて軽い不愉快さを残しながらまだ鳴り続いている雷への恐怖にひとりびくびくと怯えていた。
すると少しして、またあの男が戻ってきた。
「な、なに…」
何しに来たの、そう言いかけたところで突然ズボリと頭に何か装着された。何がなんだか分からず呆然としていると続いて両耳から大音量の洋楽が聞こえてきた。
意味が分からず財前の方を見ると、口パクで「どうや?」と問われた。何のことか分からず首を捻ると窓の方を指差されやっと理解した。どうやら雷の音が聞こえないようにしてくれたらしい。
「あ、ありがと」
珍しく優しい財前に戸惑いつつも礼を言うと、ヤツはにやりと笑って手を出してきた。それは所謂なんかくれのポーズである。
「え、なんも持ってな…」
言いたかった言葉は音になる前に目の前の男に飲み込まれてしまった。キスされた。柔らかい感触が離れ少し遅れてその事実に気付き顔に熱が集中する。そんな私を見て不敵な笑みを浮かべた財前は、そのまま私を残して自分の席へ戻っていった。
もう雷どころじゃない。
机の下の秘密
20110424-0425