春ですね | ナノ

◎高校生


冬の寒さもすっかり和らぎぽかぽか陽気に包まれた今日この頃。辺りは一面桜色に染まっていた。桜の並木道がある通学路に風が吹くたびに花びらが舞い散ってなんとも幻想的だ。

綺麗な光景にうっとりしながら学校までの道程を歩いていると少し離れたところに見覚えのある後ろ姿を見つけた。風に吹かれふわふわと色素の薄い髪を揺らしながらゆったりとした足取りで歩いている。その視線は桜に向けられているようで、どうやらあの人も桜に魅せられているようだ。

「あっという間に満開だね」
「ん?ああ、誰かと思うたら。おはようさん」

少し前にいたその人物に駆け寄り声をかけると僅かに驚いた表情をこちらに向けた彼は、声の主が私だと分かるとまた視線を桜に戻した。

「さみしいなあ」
「え…」
「って顔してた」
「…はは、かなわんなぁ」

桜を見つめるその瞳はどこか切なそうに揺れていた。まるで母親に置いてかれた子どものようにひどく弱々しく儚くて、舞い散る桜の花弁がそれをより一層引き立たせているような気がした。なんだか彼のまわりだけしんしんと雪が寂しく降り積もっているみたいだ。

「来年の今頃、俺たちはどうなっとるんやろな」

彼が目の前に落ちてきた花弁を掴もうと手を伸ばす。だけどそれはするりと彼の手をすり抜けていった。

高校三年の春、みんな徐々にではあるが進路を決めつつあった。それぞれの進路、それぞれに進む道。高校を出れば当たり前のように今まで一緒にいた仲間たちとは離れてしまう。会おうにも時間の都合が合わなかったりしてなかなか会えないだろう。こうしてみんなで騒いで笑いあって、一緒にいれるのはこの一年が最後になる。

「別に、何も変わんないよ」
「…かわらんわけ、」
「変わらないよ」

みんなと一緒にいたって事実は、この先何年経っても変わらない。確かに離れてしまうけど今生の別れってわけでもないんだし、会える時間が減ってしまうだけ。もし離ればなれになって私たちのこの関係が消えていくのなら、その程度であったまでだ。

「我がテニス部の絆ってそんな脆いもんだったのかなあ?」
「…ほんま、マネージャーにはかなわんわ」


そう言って笑った彼のまわりには、薄ピンク色の花弁が舞っていた。どうやらここにも遅れて春がやって来たようだ。




雪融け桜雨
20110411-0422

もう桜の時期終わってるっていうね
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