心は見えないけど心遣いは見える。思いは見えないけど思いやりは見える。テレビを見てたら流れてきたCMでそんなことを言っていた。それをぼんやりと眺めていたら頭の中にふとひとりの人物が浮かんできた。いつも何考えてるか分からない仏頂面なあの男。毒舌で態度もでかくて、いつもテニス部の先輩をいじめてる。だけどそんな憎まれ口は愛情の裏返しであることを私は知っている。あの男は本当は誰よりも優しい男なのだ。
翌日、学校に着くや否や鉢合わせした先生にクラスみんなのノート類を押し付けられた。薄っぺらいそれらも数がある分かなりの重量だ。小分けして運ぶのも面倒だし誰かに手を借りるのも気が引けて、職員室から教室までの道のりを一人よろよろと歩いた。
「邪魔くさ」
やっと半分ほどの距離を進んだかというところで後ろから声が聞こえた。振り向くとそこにはクラスメートの財前がいて、とりあえず挨拶をしておいた。
「そないフラフラ歩かれたら通行の邪魔やねんけど」
「それはどーもすいませんね」
「…ほんま自分とろくさいわあ。教室行くまでにどんだけ時間かかってんねん」
はあ、と大げさなため息を吐いたかと思えば私からスッとノートを取り上げさっさと歩き出す財前。あまりにも自然すぎるその行動について行けず固まる。
「何ぼさっとしてんねや。早よ来い」
「あ、うん、ごめん」
軽くなった体で財前の隣まで行くとそのまま歩みを再開した。だけどさっきより少しゆっくり歩いてる。きっと私に合わせてくれてるんだ。さり気なくノート持ってくれたり歩幅合わせてくれたり、私なんかにどうしてこんなことしてくれるのか分からないけどやっぱり優しいなって、昨日の今日でこんなことされたから思わず笑いが出た。
「きしょ。なにひとりで笑っとん」
「いや、財前クンは素敵だなーってね」
「…アホか。今更や」
ふん、と逸らしたその顔はどことなく赤いような気がして、また笑ったら塞がった手の代わりに軽く体当たりをされた。
「ふらふらすんなー」
「わざとやアホ」
「あほあほうっさい」
「アホにアホ言うて何が悪いんやー」
体を押し合いながら終わりの見えない言葉の応酬を繰り返す。触れ合う肩とそこに掛けられた僅かな力が心地よくて、ずっと教室に着かなければいいのになんて思った。
「ありがとうね」
「…おん」
トゲだらけの優しさ
20110321-0329
某CMまったく関係ないというね