赤ちゃんプレイ | ナノ (※全2ページ)



「ねぇ、赤ちゃんごっこしない?」
「なんやその変態くさい響きのごっこ遊びは」
「じゃあ赤ちゃんプレイ」
「変わってへんし」

8月、全国大会と言う名の青春が幕を閉じた。私達の夏が、夢が、全てが。それはそれは呆気なく、そして儚く。まるで彼らの血の滲むような努力も苦悩も嘲笑うかのように、生温い夏風が拐っていったような。そんな錯覚に陥った。

「それって何するん?」
「何って…ナニやろ」
「違うわ。とりあえず私がお母さんで君たち赤ちゃんね。よし来い」

部室で着替えをする彼らに向け目一杯両手を広げた。だけどみんな頭にはてなマークを浮かべ、そして奇異の目で私を見ると何事もなかったかのように着替えを済ませ部室を出ていった。なんて冷たい、というかひどいな。ぽつんとひとり取り残された部室で、失敗かあ、そんな独り言と共に盛大に溜め息を吐き出した。

大会後、誰ひとりとして泣く者はいなかった。みんな「しゃーないな」って、「来年は頼んだで」って。下手くそな笑顔で、そう明るく振る舞った。私にはそれが理解出来ない。みんな悔しくて悔しくて堪らなくて泣きたいはずなのに、どうして笑ってるのかって。オサムちゃんに言ったら「男の子やからなあ」って返された。尚更理解出来ない。そんなとこで強がるなんて馬鹿げてる。
なんて、そこまで考えて思考は中断させた。マネージャーごときが彼らの気持ちなんてわかるはずもない。ましてや男の子の考えなんて余計わかりゃしないのだ。赤ちゃんプレイと称して泣かせてやろうなんて見当ちがいも甚だしかったのかもしれないと、再び大きな溜め息を吐いた。

「マネージャー、おる?」
「うん…?どうしたの?」

部室でしばらく呆然としていると不意に開かれた扉。そこから現れたのは白石だった。彼が部活中に抜け出してくるなんて珍しい。何かあったのかと身構えるが白石は私の隣に腰掛けるとそこでふぅ、と一息ついただけだった。

「白石?」
「さっきのやねんけど、」
「さっき…?」
「赤ちゃんプレイ言うやつ」
「え、ああ、うん」
「…マネージャーの考えとることは分かっとるで」
「え?」
「俺らを慰めたかったんやんな?」

白石の言葉に思わず目を見開く。その表情に図星だと分かったのか彼は笑って私の頭を撫でた。

「すまんなあ、気ぃ遣わして。マネージャーかて悔しいのにな」
「…」
「ほんまは自分が一番泣きたいはずやのに。我慢せんでええんやで?」
「…白石、こんな時くらい人を気遣うの止めなよ」
「な…」
「悔しくても泣かないことが完璧ではないと思うよ。そんで男の涙がかっこ悪いものだとは思わない。むしろ私は頑張って頑張って、その結果悔し泣きする人の方がなんかかっこいいって思う」

少しおどけた風にそう言うと今度は彼の目が大きく見開かれた。それから何かを誤魔化すようにぎこちない笑みを浮かべて、私から視線を反らした。

「はは、なんやそら」
「あらクーちゃんどうしたんでちゅかー?よちよーち」
「ぶはっ、マネージャーそれおかしいわ」
「ママに向かっておかしいはないでちゅよー」
「こないなおかん嫌やなあ」

笑いながら白石は私の肩に顔を埋めた。そっと頭を撫でると次第に肩が濡れていくのを感じる。

「…勝ったモン勝ちや。んで、その逆もまた然り」
「…うん」
「そんなもん、最初からわかっててん。…わかっとったはずやねん」

「…俺がしっかりせぇへんかったから、」

「…オサムちゃんに優勝旗、見せたりたかったなあ…」

「…くやしい。悔しいわ」

ぽつりぽつりと紡がれる言葉が、涙と一緒に肩にじんわりと染み込んでいく。しゃーないなんて潔く片付けられるほど中途半端なものじゃなかった。みんな本気で、全てをここに懸けていた。ずっと傍で見ていたから、いや見ていなくたってわかる。悔しいね、悔しい。仕方ないけど、仕方ないで片付けたくない。頭の中がぐちゃぐちゃで気付けば私も泣いていた。

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