てまりうた | ナノ


いつも空いているはずの隣の席が今日は珍しく埋まっていた。千歳くんが学校に来るのは確か一週間ぶりではなかっただろうか。空いていることに慣れてしまったせいかそこに人がいると何だか変な感じだ。

「書くもの忘れたけん良かったらシャーペン貸してくれんね」
「うん、どうぞ」
「悪かね」

彼は学校に来ても大抵いつも手ぶらで来ているためよく周りの人間に文房具類を借りている。今日のターゲットは私だったようで申し訳なさそうな笑顔を見せそう言った彼に愛想笑いを浮かべながら手持ちのシャーペンを貸した。

筆箱を漁り目に付いたものを適当に彼に貸したわけだが、その貸したものはお土産にもらったキティちゃんのシャーペンで。大人顔負けの巨体である彼が可愛らしいキティちゃんの飾りを揺らしながら勉強している姿はなかなかに面白くて、横目に彼を見ては零れそうになる笑いを必死に堪えた。

「あれ、これ熊本っち書いとる」
「えっ!」
「どげんしたと?」
「う、ううん何でも」

失礼極まりないことを考えていたところ突然話しかけられてびくりと体が跳ね上がった。こっそり彼のことを笑っていたのがバレたのかと思ったが違うようで、私を見て不思議そうな顔をした彼に慌てて笑ってその場を取り繕った。

「あ、えっと、そういえば千歳くんって熊本だったね」
「そうばい。これはアレやね、あんたがったどっこさ〜のやつやね」

ミユキが昔よーやりよったばい。シャーペンを見つめながら楽しそうに微笑む千歳くん。そういえばキティちゃんはたぬきの着ぐるみきてたしシャーペンにも船場山って書いてたなあ。揺れるキティちゃんのキーホルダーを優しく撫でて何かを懐かしむその横顔がどこか寂しそうで思わず見とれた。彼にもこんな顔が出来るなんて、そう思った私は失礼なやつだろうか。

「それってボールついて遊ぶやつ?」
「知っとると?」
「なんとなくは。やったことないけどね」
「それはいかんばいね。後で俺が教えてやるったい!」
「えっ!いや、」

いいよ。そう言いかけたところでチャイムが鳴り響いて言葉を遮られた。なんというタイミングだろうか。千歳くんはそれを良いことに私の腕を掴むと満面の笑みを浮かべて「行くばい!」と張り切って教室を抜け出る。多分彼は授業に飽きたからさぼる口実に私を連れ出したのだろう。授業中の退屈そうな顔はどこへやら、とても楽しそうだ。彼に腕を引かれ向かうはグラウンドか体育館か。どこでもいい、楽しそうに前を歩くこの人とならどこに行っても楽しいような、そんな気がした。




ときめくシャープペンシル
20110319

方言わからねぇ
あんたがたどこさの正式名称は肥後手まり唄らしいです
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -