優しい王様 | ナノ


私の中で跡部という男は金の力にものを言わせて偉そうにふんぞり返る超絶ナルシスト野郎である。セレブだかなんだか知らないが毎朝優雅に高級車で登校してきて邪魔くさいし取り巻きの女子が死ぬほどうるさくて休み時間に寝れないし俺様具合がむかつくし自信に満ち満ちたあの態度がうざいし、とにかく私は跡部が苦手だ。

放課後、ひとりで東京の町をぶらついていると重たそうな荷物を抱えよたよたと歩く老人の姿が目に入った。周りは我関せずと通り過ぎていく人たち。老人の行く道に階段が立ちはだかり、いよいよ手を貸さないといけないと勇気を振り絞りそちらに歩み寄ろうと一歩踏み出した。

「貸しな、ばあさん」

が、私が声をかけるより幾らか早くどこからともなく一人の男がスッと老人に手を差し出した。あまりにも自然に、そして優雅に差し出されたその手に私も老人もぼーっと見とれていた。

「ほら、早くしねぇか」
「あんた…どこの王子様だい?」
「アーン?誰が王子様だあ?…俺様はキングだ!」

にっと自信満々な笑みを老人に浮かべた男。その横顔が見えた瞬間驚きのあまり目玉が飛び出しそうになった。なんで、なんであの男がこんな所にいるんだ。こんな庶民の溜まり場に何故。
そんなことを考えていたらいつの間にか老人とナルシストは階段を登り切っていた。すごくナチュラルにそして丁寧に老人をエスコートしている。おばあさん目がハートだし。なんだろうこれなんて悪夢だろう。謎すぎる光景を目の当たりにした私は、その日はフラフラとしながら家に直帰した。


それから数日、例の悪夢を見たショックから幾らか立ち直った私はまた放課後に宛もなくぶらぶらとしていた。するとどこからともなく泣き声が聞こえてきた。あたりを見渡してみると少し離れたところに幼い子供が座り込んでいるのが見えた。迷子だろうか、そう思い近付いてみた、が。

「おいガキ、そこで何してる」
「ま、ままが…、ままがいないの…」

まただ、またあの男が現れた。悪夢再来。今度は迷子を助けるだと…?何してんのコイツまじでなんでこんなとこいんのコイツ。

「ママは今日どんな服装だ?」
「うえが白で、したが黒のズボン…」
「分かりにくいな。名前は」
「ゆうこ…」
「お前は」
「こうた…」

いくつかの質問をすると男の子に向かって微笑み頭を軽く撫でた。普段とは少し違う優しさを帯びたその表情にどきりとする。跡部は立ち上がると携帯を取り出しどこかへ連絡を取り始めた。電話が終わり少し経った頃、彼らの前に女の人とやたらがたいの良い黒服の人が数名現れた。

「まま!」
「こうた…っ!」

女の人を見つけた途端男の子はそちらに駆け寄った。それを見た跡部は微笑んでいる。なるほど黒服は跡部のとこの…というかものの数分でよく見つけられたもんだ一体どんな手使ったの恐るべし跡部家。

「ありがとうございました…!何てお礼を言ったらいいか…」
「アーン?礼なんざいらねぇよ。それよりもう二度とガキから目を離すんじゃねぇぜ」

そう言って颯爽と街中に消えていった跡部にやはり目がハートな奥様。しかしまあ確かにちょっと跡部がかっこ良く思えたりなんかして。ああ、やっぱり悪夢だ。



民想いな王様
20110228-0304
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