ひざ掛け | ナノ


さむいさむいこの季節。どれだけ着込んでもスカートを穿いてさらけ出された足は寒い。教室も暖房は効いていてそれなりに暖かいのだけど足先だけはどうしても冷えるものだ。そこで手放せない冬の必需品のひとつがひざ掛けだ。さらけ出された足を暖めるように包んで寒さから守ってくれる柔らかいそれは例えるなら私の王子様。冷気という名の悪者から身を挺して私を庇う素敵なあなた。ああ、なんて愛しい…

「さっむ。ちょおこれ貸せや」
「おう!?」

愛しいひざ掛けに思いを馳せていたら突如その想い人が私のそばから離れてしまった。途端にひやっとした肌寒さに襲われ体が震える。それと同時に横からあったか〜と呑気に和む声が聞こえてきた。

「てめっなに人のひざ掛け当たり前のように使ってんだ!」
「おまえのもんは俺のもんや」
「おまえはジャイア、いや財アンか!」
「誰が財アンや上手いこと言うたつもりかしばくど」

隣の大魔神ジャイアンから攫われた愛しのプリンスを取り返そうと奮闘するも努力は空しく、それはびくともしない。その間にもせっかく温もっていた私の足はどんどん冷えていく。

「ちょっとまじ寒いから返せ!」
「外から帰ってきた俺の寒さに比べたらそないなもん屁でもないやろ」
「んだと!寒がりなめんなよ!」
「低体温なめんなや」
「いぎゃあああああああ!」

ぺと、と首を絞めるように当てられた財前の手。キンキンに冷えたその手の冷たさに全身鳥肌が立った。引き剥がそうとその手を掴むがやはりびくともしない。というかちょっと絞まってるこれ。

「なんやお前体ぽっかぽかやんけ」
「寒い死ぬ寒い苦しい!」
「ええカイロ見つけたわ俺ほんま天才やな」
「気付けおまえはただの馬鹿ぐえっ」
「うっかり手に力が入ってまうな〜なんでやろ」
「ごめ゙ん゙な゙ざい゙天才秀才財前様」
「分かればええねん」

ようやく解放された私はげほげほと咳込みながらすっかり冷たくなった首をさすった。この男のせいでさっきよりさらに体が冷えてしまった。スースーする首元を温めようと鞄からマフラーを取り出した、ら、横から伸びてきた手にそれすらも奪われた。

「おいいい!マフラーぐらい自分のあるだろ!」
「俺のあんまぬくくないねん。寒いなら俺の貸したってもええで」
「いらん、死」
「もっぺん首絞めたろか」
「わっ、わあーい!財前きゅんやっさすぃ〜!ありがとおーん!」
「嘘に決まっとるやろ。誰が貸すかあほ」

何で私がこんなに惨めな思いをしなくちゃいけないんだろうか。ふと考えてすんごい虚しくなってきた。やっぱこいつジャイアンだ。そして私は哀れなのび太。猫型ロボットがいなきゃジャイアンには敵わないと諦めたのび太こと私は力なく机に項垂れた。途端に寒さからかくしゃみが飛び出す。しかも三連発。

「うぎゃあっ!」
「…手ぇ貸せアホ」
「えっ」

突然自分の椅子が動いたかと思うと財前の方にぴったりくっつけられた。そして独占していたひざ掛けを私の方に半分寄越すと、私の手を取り自分の手に絡めてひざ掛けの下に隠してしまった。

「ざ、ざいぜ…」
「こっちのが俺がぬくいだけや」

そっぽを向いてぶっきらぼうにそう言った財前の手はもうさっきほど冷たくない。くっつき合った肩とか足から布越しに財前の低い体温が伝わってきて、ものすごく恥ずかしいのにあったかくて落ち着く。

「おーし、授業始めるでー」

いつの間にか終わっていた休み時間、始まる授業。その中でひざ掛けに隠れたお互いの手がどんどん温かくなっていくのを感じてドキドキして、だけど心地よくて。ジャイアンなんかにときめいてる自分が悔しくて絡めた指に力を込めたら優しく仕返しされた。



ジャイアンだってたまには優しい
20110225
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