「ま、オレが楽しけりゃお前の正体なんざなんでもいいよ」

奇妙なわたしを彼はすんなりと受け入れてくれた。笑ってくれた。思った通りの人。嬉しくなって、わたしも目一杯笑った。

「今日もバカみてーに天気いいよなー」

彼は色んなことを教えてくれた。がっこう、ぐらびあ、ぶかつ、ばすけ。わたしの知らないことをたくさん。

「このままだとお前干からびんじゃねーの」

わたしがばすけっとぼーるに触れてみたいと言えば面倒だといいながらもわざわざ持ってきてくれた。晴れ間が続くと水を与えてくれた。色や香りを誉めてくれた。そうしてわたしはあっという間に満開になっていた。わたしはきれいに咲けているだろうか。

「あなたといると、楽しい」
「あ?」
「すごくしあわせで心が温かい」
「おま、いきなりカユイこと言うなっつの」
「本当のことだもの。あなたの側で咲けてよかった」
「…そーかよ」

彼は少しだけ照れ屋。ぶっきらぼうで荒っぽい。でも、冷たい言葉遣いの中には小さな温度がある。わたしもその温度に触れることが出来たのは、本当に幸せなことだった。

それから二日間雨が降り続けた。雨の衝撃に耐えきれなくてじわりじわりと色が散ってゆく。咲き誇ったわたしは彼にどう映っただろう。彼がたくさんの色をわたしにくれたように、わたしもあなたに色をあげられたのだろうか。

神様がせっかく声をくれたけれど、やっぱり想いは伝えなかった。わたしは彼に笑ってもらえたから。たくさんおしゃべりして、時を共有してくれたから、もうおなかいっぱい。ちっぽけなわたしの想いなどもはや伝える必要はない。あなたを困らせることはしなくていいのだ。わたしの存在意義とは、あなたを楽しませることなのだから。

「…え?」

晴れた日、わたしの元に来てくれたあなたは目を見開いた。ああ、散り際などみすぼらしいから見られたくはなかったのだけど、でも、最後に会えたことはやっぱりうれしい。

「お前、あの雨で、」
「うん。今日でさよならだよ」

よれよれの体は時間の流れにそってゆるりと薄れていく。

「…そっか、短ぇ命だなー」
「だけどあなたのおかげで楽しかった。幸せだった」

生まれて一番最初に見た世界はあなたと青空が広がる景色だった。今日もあの日のように世界は美しい。

「バーカ、んなの当然だろーが」
「ふふ、そうだね」

恋をして大好きな人のために花開き、大好きな人に愛でられながら散る。名もないちっぽけなわたしだけれど、どんな花も恥じらうような華々しいわたしの生涯。

「あなたの隣に生まれてよかった。あなたに見つけてもらえてよかった」
「…ああ、」

わたしの一生はとてもカラフルだった。あなたへの恋心は燃えるような紅色、あたたかな太陽の黄色、やさしい草の緑、きらびやかな朝焼けの赤、せつない夕暮れの薄紫、おだやかな夜の漆黒。

「…オレも見つけてよかったよ」

そして、あなたの群青に溶ける。


0918
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