柳蓮二2 | ナノ


それからはとにかく感情を言葉に出してみることを心がけた。その日感じたことや考えたことを思い付いた言葉で。柳くんはそんなわたしの拙い表現を黙って聞いてくれて。そして彼なりに解釈したことを伝えてくれた。それから次第に柳くんはわたしを理解して感情を先読みすることが増えて、それはまるで以心伝心しているようですごく嬉しくてしかたなかった。

「だがその理由は未だにわからないんだな」
「うーん、そうだね」

何故これほど嬉しくなるのか。単に理解されたいと思っていたから、というだけで片付けられない。じゃあそれは何故か。いまいちしっくりくる言葉の表現が思い付かないでいた。

「あ、だけど新しい考えが生まれたよ」
「なんだ?」
「どうして柳くんはわたしに興味を持ってくれるの?」
「…ほう、そうくるか。では何故その考えに至った?」

え、今質問したのわたしなのに質問返しってなに。と言いたいところだったが恐らくそんなことを言っても簡単に跳ね返されてしまうから大人しく質問について考えてみる。

「…柳くんを知りたいから?」
「何故知りたいと思った」
「気に、なるから、かなあ」
「何故気になる」
「ちょ、タンマタンマ」

え、なに、すごい質問攻め。いつもより畳み掛けてくるような問いかけに慌ててそう言うと柳くんは呆れたようにため息をついた。こちらを見やる瞳がどこか憂いを帯び色っぽくてどきりとする。

「そうだな、自身のことを伝えるにはまず己を知ることからかもしれない」
「おのれ?」
「お前は時々自分自身のことも理解しきれていないだろう。だから伝えられないということが多い」
「…確かに」

そろそろ追究すべきだな、そう切れ長の目がすっと細められわたしは自然と姿勢を正した。

「では先程の続きだ。何故俺のことが気になる」
「え、うーん…何故かなあ…」
「…質問を変えよう。俺のことをどう思っている?」
「優しくて頭がよくて美人で…」
「、すまない。言い方を間違えたようだ」
「え?」
「お前にとって俺はどんな存在なんだ、と聞けばいいか」

存在?柳くんの言いたいことがいまいちわからず首をひねる。すると彼は紙とペンを取り出して色々な単語を書き始めた。
すらすらと紙の上に綺麗な文字が綴られていく。友情、尊敬、嫌悪、愛情、恋情。およそ人が他人に抱く感情の種類を柳くんは次々と書き上げていった。そうして大方を書くと今度はわたしにペンを差し出す。

「この中で俺に対して感じるものがあれば印を付けてくれ」
「あ、え」
「他にもあれば付け足して構わない」

戸惑うわたしにひとつ笑みを浮かべてペンを無理矢理握らせた柳くんはこちらを見据える。何もかも見透かしているような目だ。
紙の上に書かれた文字たちを見た。いろんな言葉があるけれど、わたしの目はどうしてもひとつの文字しか見ようとしない。そしてその文字と目の前の彼を交互に見る。一層深まった笑みはその艶やかさを増した。

「…そうか、そういうことか」
「どうした、なにか分かったのか?」
「…わかってるくせに。柳くんは少し意地が悪いんだね」

どうやらわたしは考えすぎてかなりの遠回りをしてしまったらしい。こんな簡単なことにも気付かなかったなんて。

「今さら気付いたのか?」

柳くんはとっくに全部わかってたんだ。その上であれやこれやと四苦八苦してるわたしを見て楽しんでいた。なんて、性質の悪い。

「考えすぎてもよくないんだね」
「意地が悪い俺は嫌いか?」

そんなの聞かなくたって本当はわかってるくせに。ああ、なんだか色んなことが一気にわかって来て頭がパンクしそう。

「好きだよ、好き」
「知ってる」

くすくすと笑う柳くんはにくらしい。だけどその後にゆったりと笑って「俺も好きだ」と返してくれるんだから、にくめない。ずるい人。

やっぱり想いを伝えることは難しい。だけどキリがないくらいもっと色んなことを知りたいと望んでしまうし、知ってほしいと思ってしまう。人間ってややこしいけど、人間に生まれて柳くんに会えてよかったと思う。そう、いつものように彼に伝えた。


0910
今さらなんてレベルじゃないですが柳さんハピバでした
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