引き金を引くと、音もなく弾が飛び出して目の前の人間がただの肉塊に変わる。呆気ないなあ。ぼんやりとそう思いながら今日も一人、また一人と新たな肉塊をつくる。
刃物と違って銃には人を殺す感触がないのがよくないところだと思う。ましてや今は甲高い破裂音さえしない無音の銃を使っているんだから、尚更命を奪う感覚が薄れてしまった。仕事上人を殺めることはやむを得ない。ただ殺人をとても安易な、例えるならテレビゲームのようにボタンを押せば敵が死ぬような実に単純なこととしか思えなくなっていた。わたしはもう人間ではないのだろうか。気が狂ったただの殺人鬼なのだろうか。

「じゃあ僕を殺してごらんよ」

そしたらわかるかもしれないよ?銃を握ったわたしの手ごと自分の心臓に突き付けてわたしの上司が言う。にこやかにほら、と急かす上司の言葉は命令で、つまり仕事だ。殺すのか、この人を。引き金に掛けた人差し指を押されてぞわぞわと戦慄が走った。待って、止めて、こわい。

「僕を殺すのは怖いんだね」
「僕を失いたくないから、僕を愛してるから」

恐怖で震えた身体をふんわりと抱き締められる。そうか、殺せないんだ。この人は仕事でも、愛しているから殺せないんだ。

「君は立派な人間だよ。自分の愛する人は殺せないけど、どうでもいい人間は殺せちゃう」

「エゴにまみれた立派な人間さ」

楽しそうに笑うのは愛しい人間。温かいその身体に埋もれる中で、無機質の銃だけがいやに冷たかった。



0818
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -