トトロは見えない | ナノ


「トトロむぞらしかー!」
「めいいい泣いたらいかんばいい」
「俺もネコバス乗りたかああ」

テレビの前に張り付いて珍しく興奮しているもじゃもじゃ頭の横にトトロのマグカップを差し出した。彼は嬉しそうにこちらを向くとそれを受け取りわたしを足の間に収める。広くてがっしりとした背もたれに寄り添ってわたしもトトロに集中する。背もたれから響く声にひどく癒される。なんて幸せな時間だろうか。

「メイもサツキも会えてよかったばい」
「お母さんにとうもろこし渡せたしね」
「連れてってあげたネコバスはほなこついい子ったい」

トトロがおわってもそのままの体勢で延々感想を話続ける千歳。毎年この時期になると、いやこの時期の放送がなくとも録画したものを見ているくせに毎度飽きずにきらきらした顔でトトロを観ている彼はたまらなくかわいい。正直トトロよりも千歳の方がかわいい。本人には言えないけど。

「ほんにトトロはよか話ばい。特に姉妹愛と家族愛がよか」
「ミユキちゃんとメイちゃんを重ねてるの?」
「ん、おてんばなとことかそっくりやけんね」
「じゃあ千歳はサツキだね」
「ミユキと一緒にトトロに会いたかー!」

サツキとメイを自分たちに置き換えたところを想像して悶えたのか足の間に収めているわたしにぎゅうぎゅうと抱き付いた。わたしはそんな千歳に悶えそうだ。

「俺がサツキならお前さんはカンタやね」
「えー、なんで」

可憐なお母さんやかわいい小トトロに例えられるならまだしもまさか坊主頭の少年に例えられるとは思わず少し口を尖らせた。そんなわたしの頬に千歳は唇を押し当てるとにっこり微笑む。

「俺の予想ではサツキとカンタは将来恋仲に発展すったい」
「え」
「俺の才気煥発に間違いはなか」

「どこの誰になっても俺とお前が結ばれることに変わりはなかとよ」
耳元で甘ったるく囁かれるその言葉に頬が熱くなる。たまらない気持ちになって振り向けば唇を掠め取られた。キッズアニメを見たあとのキスにしては、少し熱っぽい。

「こんなキスしてたらトトロに会えないよ」
「トトロにも会いたいばってん、お前さんといちゃつくんはやめられんとよ」

トトロは子供にしか見えない。きっと今のわたしたちにはトトロが真横にいたって見えないんだろうな。わたしは千歳を、千歳はわたししか見えていないから。千歳には悪いけどそれってすごく、すごく嬉しくて幸せだ。



トトロのあとは
0714
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テーマ「人外ファンタジー」
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