生 | ナノ


大きな地震があってから毎日おなじ夢をみるようになった。なにも無い毎日をただなんとなく生きるわたし。昨日と今日の区別がつかない、淡々と流れていく時間。代わり映えのない日々。生きる意味も目的も希望もどこかの時間に置いてきたしんでるわたし。そんな真っ暗なわたしの前に現れる真っ白いひと。燃え上がる街を背に楽しそうに笑ってわたしに手を差しのべる。その姿はまさに天使のよう。握った手はおおきくてとてもあたたかで、生きているのだとまざまざと感じた。
そのひとの手を取ればわたしはそれまでがうそのようにいきいきとしていた。毎日が楽しくて笑っていた。毎日が新しくて忘れないよう日記をつけていた。ぎっしりと埋まるページに満足して白いひとに駆け寄って。見上げた彼はとてもきらきらして神様みたいだった。
「  、  」
そうだ、名前はなんだっけ。鼻歌を歌うように呼んでいたあの人の名前が思い出せない。誰だろう、わたしにいのちを吹き込んだあの人は。すてきな名前。なによりも輝いてあたたかくてわたしのすべてだった、あの名前は。
そうして名前を思い出そうとして目を覚ます。いつも涙を流しながら、またなにも無い現実に戻るのだ。けたたましく叫ぶ目覚まし時計を止めて支度をして外に出る。眩しい太陽の光も吹き抜ける風も踏みしめるアスファルトも、昨日とおなじ。なにも無いわたしが今日もできていく。歩けば歩くほどしんでゆく。
「  ら 、 ゃ  」
あの白い天使に会いたい。だけどあれはきっとわたしがつくった虚像。理想像。だけど妙にリアルで。あんな人など居やしないのだ。だけどいると信じてしまう。
「  蘭、  」
自分がつくりだした理想にまたわたしが潰されていく。明日への絶望がじりじりと迫りくる。
「  、白  」
もういやだ。いっそ、いっそ、消えてしまいたい。おのれの足元からのびる暗い影に引き込まれるように背中が丸まってゆく。ああ、このまま小さくなって消滅したらいいのに。
「またきみはしんでるの?」
不意に丸まった背中にあたたかくておおきなものがふれた。瞬間、わたしの消滅がぴたりととまる。
「 白  、 蘭 」
わたしの背中をなでるそれに丸まった背中がどんどんのびてゆく。
「僕がまた変えてあげよっか」
真っ直ぐになったからだで振り向くと、そこには太陽よりも眩しくてあたたかいてのひら。
「びゃく、ら ん」
「おいでよ、今度はもっとすてきないのちをきみにあげる」
なにも無いわたしの世界にまたいのちが芽吹く。
「白蘭、白蘭」



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