8.5 | ナノ



「…」
「…」

辺りから聞こえるのは傘に雨がぶつかる音と私たちが濡れた地面を踏みしめる音。それ以外に何も聞こえない。終始続く無言。会話がない。いや、正確に言えばちょくちょくあるのだが全く続かなくてネタ切れなのだ。なんか気まずい。ずっと触れたままのお互いの肩がそれをより一層強めている気がする。

「あ、あんな」
「な、に?」
「…いや、やっぱ何でもない」

すまん、気にせんといて。言いかけた言葉を飲み込んで白石はちょっと切なそうに微笑んだ。なにその顔。なんで悲しそうなの。気になった。でも、私には聞けなかった。

「あ、俺んちここやから」
「う、うん。じゃあ傘、借りるね」
「…やっぱ待って」

え?と聞く前に白石はバタバタと家に入っていった。そしてものの数分でまた戻ってきた。手に傘とタオルを持って。

「はい、これ交換な」

そう言って私の首にかかっていたタオルと手に持っていた物をするりと入れ替えた。「肩濡れてもうたやろ?湿ったタオルで拭いてもあんま意味あらへんからな」だって。それだけのためにわざわざタオルを持ってきてくれたっていうのか。

「あと、送らして」
「は…」
「俺とおるん嫌やろうけど、女の子に送ってもろうて帰るんはやっぱ性に合わんっちゅーか、気が済まんっちゅーか…」

もごもごとしゃべる白石を黙ったまま見つめると私の視線に気付いた彼はピタリと固まった。少し色付く頬。それを隠すようにがしがしと頭を掻いて「あ゙ー」と奇声を発する。あれ、こういう仕草するの、珍しい。

「ちゃう!こんなん言いたいんとちゃう!」
「ちょ、声でか…」
「ほんまは、その…まだ一緒におりたいだけや」
「… へ」
「とりあえずはよ帰ろか!風邪引いてもうたら大変や!」

何かをごまかすようにわざとらしく笑って私の手を引っ張ってぐんぐん進む白石。方向そっちじゃないんだけど。前を歩く広い背中と傘からはみ出て濡れるふたつの手に、しばらくその言葉は言えなかった。




~1110
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -