キスからはじまる | ナノ

白石と付き合うことになってもうすぐ一ヶ月が経とうとしている。少し前まできゃあきゃあ騒がしかった周囲もかなり落ち着いてきた。それは白石とわたしが付き合っているということが浸透して日常化していってるということだと思った。
わたしはといえば、こんな風になって尚白石になにも言わないままでいた。というか、言えないのだ。いまさら。好きだ、なんて。
そうだ、わたしはまんまと白石を好きになったんだ。というかもうあのケーキ屋事件(と手帳に書いた)ですでに落ちていたのかもしれない。まあイケメンだしね、そら惚れて当然だよね。と、なんか悔しいから強がってそう思い込むことにしている。
とはいえまったくなにも気持ちを伝えないままでいるというのはよくない、と思う。だって向こうはびしびし愛情を伝えてくれているから。毎日のように、それこそ猛攻だ。それをいつまでもスルーというのはあんまりすぎる。

「どうやって伝えればいいと思いますか」
「俺に聞かれても」
「好きですと言えないのだがどうすればいいと思いますか」
「いやせやから俺に聞かれても」

しかし直接的に伝えることはあまりにも難しすぎた。日が経ちすぎていまさらと言う名の羞恥心が立ちはだかるのだ。もうそれこそベルリンの壁の如く。

「ほならその壁ふたりで壊したらええやん。作ったんはそっちでも壊すときは互いが協力してやな…」
「協力に至るまでがわかりません結局どうすればいいと思いますか」
「めんどっ!ほんまめんどっ!」

ギイイ!と奇声を発して忍足がキレた。多分ぐずぐず感が彼のスピード魂に不快を与えたらしい。申し訳ないと思うけどわたしも困ってるんだ。とりあえず白石が職員室に言ってるこの間にアドバイスもらいたい。

「ごめんでも忍足しか頼れないんだよ!頼むよ最強最速浪速のスピードスター様!」
「…ま、まあそう言われたらしゃーないわな。浪速のスピードスターがソッコーで考えたるわ!」

そう言って忍足は一休さんみたいなポーズをして考え始めた。うん、扱いやすい人でよかった。

「整いました!」
「はやっ!」
「あったり前やろ!浪速のスピードスターは閃きも最速っちゅー話や!」

いやもうそんなんいいから!ドヤ顔で威張り散らす忍足にはやく話せと急かす。すると忍足はニヤリと笑ってわたしの耳元でこしょこしょ話をするみたいに話し出した。

「…ほうほう、なるほど」
「それを記念日に実行することをオススメする」
「わかった!ありがとう天下のスピードスター!」
「ハッハッハッ!健闘を祈るで!」



「昼休み、屋上にて待つ!」

というわけで来る一ヶ月記念日。わたしは忍足に言われた通り白石を屋上に呼び出すべく朝イチで白石に果たし状を叩き付けた。


 


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