キスからはじまる | ナノ

「おはようおはよう」

今日も教室に着くなり手当たり次第投げキッスをかます。でも最近ちょっと飽きてきたから適当にするとみんなもそれをわかっているらしく同じく適当に返してくれた。

「白石忍足もおはよー」
「おはよう」

ちゅ、べし、もぐもぐもぐ。最近仲良くなった彼らにもすれば忍足は弾き飛ばし、そして白石はぱくりと食べた。…まただ。

「白石ー」
「なん?」
「ちゅっ!」

不意をついて白石に投げキッス。それを受けた彼は突然のことに一瞬は目を丸くするもののすぐにキャッチして、またぱくり。やっぱり食べた。

「白石さ、食べてばっかりだよね」
「ええやん。うまいで」

にこり、なんともいい笑顔を向けられてわたしは返す言葉が浮かばず愛想笑いしか出来なかった。

白石に投げキッスをすると必ず食べられる。たまには他の反応もみたいのに食べる以外はしてくれない。おもしろくない、し、なんだかちょっと変な気分だ。

「…なあ」
「なに?」

呼ばれて振り向くと白石に投げキッスをされた。先程の白石よろしく一瞬驚くも、なんとか平静を装ってぱくりと食べた。

「あ、食べた」
「ふむふむ、これは…」
「今のどういう投げキッスかわかったん?」
「わたしを誰だと思いになって?投げキッスのソムリエールよ?」
「へーえ?」

得意気にそう言ってやれば白石はおもしろそうに笑った。頬杖ついてにこにことこちらを見つめている。

「ほなオッケーっちゅうことやんな?」
「なにが?」
「ん?ソムリエールなんやからわかってんねやろ?」
「お、おう!ああ!もちろんオッケーさ!いい感じ!」

ノリがよくわからないけどとりあえず乗っておこう。そう適当に返事をした。

「謙也あああ!」

その瞬間、それまでにこにこと穏やかな笑顔で佇んでいた白石が勢いよく立ち上がり、いつの間にか他の男子と話していた忍足の名前をすごい剣幕で叫んだ。クラスの視線が一気に集まる。

「なんやなんや!?」
「ついにやったで!」
「へ?」
「付き合うてくれるて!なっ!」
「まじか!」
「ええええ!」

腕を掴まれ立たされるとその勢いのまま肩を引き寄せられた。白石に身を寄せる体勢に忍足がおめでとう!とでかい拍手をした。女子たちの悲鳴をどこか遠くで聞きながらわたしはただ呆然と立ち尽くしていた。

え、なんでこうなった。


 


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